第4章 動乱【土方歳三編】
でも、すぐに土方さんの方へと向き直った。
「池田屋の件は、既に雪村君からお聞き及びかと思います。自分は会津藩と所司代へも伝達を行うよう、山南総長よりうながされておりましたがーー」
「だろうな。……次の指示は追って出す。山崎はひとまず俺と一緒に来い」
「承知」
「腰の重てえ役人どもへは、新選組の副長が直々にあいさつしに行く」
彼の涼やかな瞳の奥は、怒りにも似た感情が揺らいでいる。
でも表情には怒りを滲みだしておらず、ただ厳しい表情をしているだけだった。
暫くして、土方さんの読み通りに、役人たちは列を成しながら大通り現れた。
百を超えるかに思える行列が通るのだから、確かに裏通りでは狭いだろう。
(でも、今更……?夕方にはもう伝達は行っていたのに、今更こんな大人数で悠々としながら……)
その事に何故か悔しく感じた。
「今も、新選組の方々は池田屋で戦っているというのに……」
新選組の方々は少人数で、この京の治安を守る為に池田屋で戦っている。
目的はお役人の方々も同じ筈なのに、何故すぐに駆けつけてくれないのだろうか。
もしかしたら、私の不満な感情が顔に出ていたかもしれない。
土方さんは私の顔を見るなり、切れ目長い瞳を細めて軽く笑った。
「安心しろ。……新選組を、奴らの良いようにはさせねえ」
「……土方さん」
ぽんっと土方さんは私の頭を軽く叩くと、ずらりと並んだと大勢のお役人たちの真ん前に踏み出した。
ただ足を踏み出しただけなのに、一気に土方さんからは威圧感が滲み出ている。
「局長以下我ら新選組一同、池田屋にて御用改めの最中である!一切の手出しは無用。ーー池田屋には立ち入らないでもらおうか」
土方さんの厳しい口調で語られた宣言に、お役人達がざわつき始める。
それを眺めていれば、山崎さんがぽつりと呟いた。
「……もし池田屋に立ち入ることを許せば、長州浪士制圧すら彼らの手柄となるだろう」
「そんな!?新選組から手柄を奪って、自分達の手柄にしようとするなんて……。新選組の方々が、お役人達が来る前よりも早くに命懸けで戦っているのにっ」
「それだけ我ら新選組は、軽んじられていると言うことだ。副長は、今、たった一人で新選組のために身体を張っておられる。彼らが池田屋に踏み込むことを許せば、その突入した事だけ喧伝するだろう」