第17章 亀裂の響き【沖田総司編】
千鶴は隊を離れる人と親しかった人に話を聞いてくると言い、私とは別れた。
そして私は、山崎さんが言っていた中庭へと向かうとそこには沖田さんの姿がある。
庭に立って、沖田さんはぼうっと景色を眺めている。
そうしてたたず姿はまるで、子供みたいで……不逞浪士に恐れられている沖田総司とはかけ離れて見えた。
「沖田さん?」
「……ん?君か。参ったな、こんな近くに来られるまで気がつかなかったなんて。これじゃいずれ、君に斬られちゃうかもしれないね。そんなことになったら、死んでも死に切れないだろうな」
「何言ってるんですか……そんな冗談やめてくださいよ。それより、体調が悪いならやっぱり……」
「……軽い咳は出るけどね。こんなのはどうってことないよ。それより、君のこと」
「えっ?」
沖田さんは目を細めながら私を見つめてくる。
まるで、心の中を見据えているようなそんな瞳だ。
「僕に話があって、来たんでしょ?何の用?」
「は、はい。あの……伊東さんたちが、隊を離れることで……」
「ああ。次に会う時は、殺し合いかな」
あまりにもあっさりした返事に、私は絶句してしまう。
「こ、殺し合いって……!本気で言ってるんですか?相手は、斎藤さんと平助君なんですよ?」
「もちろん、彼らが敵にならないのなら、斬る必要はないけどね。もし新選組の……近藤さんの敵になるんなら、容赦はしない」
「ですが……今までずっと仲間だったのに……」
「そんなの、どうでもいいことだよ。僕は、新選組の剣だから」
「新選組の……剣?」
「そう。剣は何も考えない。相手を斬っていいか駄目かとか、判断したりもしない。ーーひとたび命令が下れば、どんな相手だろうも斬り殺すだけだよ。それが僕の役目だからね。……知らなかった?」
彼の言葉には、一分の迷いもない。
多分、沖田さんなら本当に何の躊躇いもなくそして迷いなく敵対した相手を斬り捨てるだろう。
だけど、その言葉は私には重すぎてーー。
「……ありがとうございました」
「千尋ちゃん」
「はい?」
「君、昨夜倒れたんでしょう?あまりウロウロしてないで、休んでたら」
「え……」
「血が苦手で、羅刹を斬った。君にはきついことだらけだったでしょう。また倒れられたら困るんだから、休んでおきなよ」
「……はい」
彼なりの優しさなのだろうか。
そう思いながら私はその場を離れた。