第17章 亀裂の響き【沖田総司編】
伊東さんに三木さん、そして斎藤さんと平助君がいなくなって数日。
あれから屯所はやけに広くなり、ずいぶんと静かになってしまった。
また、時を同じくして幹部隊士の武田観柳斎さんも新選組を脱退した。
彼は御陵衛士に向かうのではなく、ただ脱退してしまったのだ。
(だんだんと、仲間だった人達がいなくなり……それぞれの道を歩んで行く)
それぞれの道を歩んでいくのは悪い事じゃない。
だけど、どうしても彼らが居なくなってしまうと寂しくなってしまうのだった。
「沖田さん。白湯をお持ちしました」
「……薬、飲まなきゃ駄目?」
沖田さんの部屋に入れば、彼は嫌そうに顔を歪めていた。
そんな彼はどことなく子供っぽくて、私より年上なのかなと思ってしまう。
「飲まなきゃ駄目です。今日は落雁を用意しましたから」
「ふーん。まあ、甘いのがあるならいいけど」
寝転がっていた沖田さんは起き上がると、渋々と薬を取り出して白湯の入った湯呑みを手に取った。
そして薬を飲むと苦かったようで、顔を歪めながら白湯で飲み干す。
「……最近、静かだよね」
ポツリと呟いた言葉に、私は眉を下げた。
平助君がいなくなってから、なんとなくこの屯所は静かになってしまった。
「まあ、うるさいよりはマシだよね。だけど、千尋ちゃんが口うるさいからなあ」
「悪かったですね、口うるさくて」
「悪いとは言ってないけど?さてと、口直しに落雁食べようかな」
沖田さんはにんまりと笑いながらも、落雁を手にして半分に割る。
そして割った片方を私へと差し出してきた。
「……え?」
「食べなよ」
「でも、それは沖田さんので……」
「辛気臭いんだよ、君。甘いのでも食べてさ、いつものヘラヘラした顔してたら」
「へ、ヘラヘラって……」
「いいから、食べなよ」
そういうなり、沖田さんは私の口に落雁を押し付けてきた。
乱暴だし、口は悪いけれども彼は私のことを気遣ってくれたのかもしれない。
「……ありがとうございます、沖田さん」
「どういたしまして」
小さな気遣いに、私は少しだけ嬉しくなりながら落雁を食べる。
沖田さんは意地悪だし、酷いと思う時もあるけれどもやさしいところもあるのかもしれない……。