第17章 亀裂の響き【沖田総司編】
伊東さんは一月前に京から離れて、新選組の新しい隊士さんの募集をしていた。
その時に私も来ないかと誘われたけれど、土方さんが勿論許す訳もないし、私も行こうとは思わなかったので断ったのだ。
「まあ、そういうことになってるけど。……実際、どこまで行ってきたんだろうね」
「詳しくは聞いていませんけど、予定よりずっと色々な場所を回ってきたとか。隊士集めのためにそれだけ頑張ったなら、伊東さんはすごく新選組思いな人ですね」
「ふうん、君はそう思ってるんだ。千尋ちゃん、君のお姉さんは単純だよね、色々」
「人を、疑うことがないので……」
沖田さんの言葉になんとも言えない表情になった。
千鶴はとても純粋で素直だから、人を疑うことを知らない。
単純で純正で素直なのはいい事なんだけど、あまり良くない時もある。
「……違うんですか?」
「ううん、違わないけどね」
「……沖田さん」
またからかったのかなと思えば、沖田さんは呆れたようにため息をはいていた。
「近藤さん、優しいからなぁ……。あんな人、早く斬っちゃえばいいのに」
「沖田さん。なんで直ぐにそうやって、物騒な事を言うんですか?駄目ですよ」
「そうです。たとえ冗談でも、同志の方を斬るなんて言ったら駄目ですよ」
「同志ねえ……。というか千尋ちゃんは、あの人に迷惑してるでしょう?会うといっつも話しかけられて、【勉強会】に誘われてるみたいだし?あの人、凄く君を自分側の人間にしようとしてるけど」
「迷惑というか……」
でも正直言えば、かなり困ってはいる。
伊東さんは何かしら私を見つければ声をかけてきて、勉強会に誘ってきていた。
しかも、時には新選組に不満が無いかとか土方さんや近藤さんに不満は無いのかとか聞いてくる。
何故、私はあんなにも伊東さんに誘われるのだろう。
そう思いながら沖田さんを見れば、何かを考えているような表情をしていた。
(そういえば、沖田さんは当初から伊東さんを快く思ってないよね)
何かあれば、【あんな人斬っちゃいましょうよ】とか【あんな人新選組には要りません】と口にしている。
でもそれは幹部の方々の前だけだったのに、最近は往来でも口にする事が多々あった。
周りに伊東さん一派の方いないよね。
急に不安になってきて、周りを見渡した時、見覚のある顔見つけて目を見開かせた。
「あ……」