第17章 亀裂の響き【沖田総司編】
沖田さんは私の言葉に目を細めつつ、少し間だけ沈黙した。
「そういう約束だったね。余計なことを言って、みんなを混乱させたら殺すからって。じゃあ、千尋ちゃん。君が死にたくないなら、秘密は秘密のままに」
「わかってます。でも、沖田さんだってーー」
私は頷き返しながらも、言葉を選んで口にする。
「願うものがあるなら、自分の身体を……今よりももっと大切にしてくださいね……」
「千尋ちゃん。さっきから気になってたんだけど、どうして君が僕を心配するの?」
「それは……自分でも……よくわかりません」
彼は怖い人だけど、私は彼に生きてほしいと思っている。
この気持ちが同情や博愛で片付けていいのかどうなのか、私にはまだわからない。
「よくわからない子だなあ、君って本当にーー」
言葉の途中で不意に、彼の表情が歪んだ。
「けほ……けほ……!」
「お、沖田さんっ!?」
いきなり咳き込み始めた彼の傍に、慌てて駆け寄る。
けれど沖田さんは無言のまま、伸ばしかけた私の手を弾いた。
「……っ」
「勝手に触らないでくれる?僕は別に大丈夫なんだから」
「沖田さん……」
彼はそのまま私に背を向けて、廊下を歩いていってしまった。
肺に巣食う病は治らないまま、彼の身体を蝕み続けている。
眼前に垣間見えた現実が、どうしようもなく苦しい。
私は両手を強く握りしめながら、一人立ち尽くすのだったーー。
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ー慶応三年・三月ー
春の時期になり、暖かな風が吹き出した季節。
京の町のあちこちでは桜が咲き始め、桜色に染め始められた。
「だいぶ、暖かくなりましたね」
「そうだね。過ごしやすい季節にはなったかな」
「あーー見てください沖田さん、千尋!桜が見事ですよ!ほら!」
今日は沖田さんの一番組の巡察に、私と千鶴は同行させてもらっていた。
その最中、町の至る所では桜が見事に咲き誇っていた。
穏やかな陽気と、見事に咲き誇った桜のせいなのか千鶴の足取りが何時もより弾んでいた。
そんな千鶴を見て、つい笑みを浮かべていれば隣にいた沖田さんがため息をはく。
「このところ暖かくなってきたし、今日はいい天気だし、浮かれる気持ちはわからなくはないけど……。一緒に歩いている僕たちのことも、少しは考えてほしいなあ」