第17章 亀裂の響き【沖田総司編】
「うん。別に深い意味はないから、気楽に答えてくれて大丈夫。あのさ……。僕の髪型、どう思う?」
「……え?」
唐突な質問に、私は少しだけ戸惑う。
だけど沖田さんには、真面目な質問のつもりらしい。
その事に気が付いて、私は素直に答えることにした。
「よく、お似合いだと思います。沖田さんらしいっていうか……」
「……そっか、よかった。ありがとう、千尋ちゃん」
「え?い、いえ……」
ふんわりと微笑まれると、何故だが恐縮してしまう。
「私はただ思ったことを口にしただけなので……お礼を言われることじゃないと思いますが……」
「でも、うれしかったからお礼を言いたくなったんだよ」
「そう、ですか……」
「お礼ついでに僕の秘密も、教えてあげちゃおうかな」
「秘密……?」
「僕の髪型って、近藤さんの真似してるんだ」
そう告げる沖田さんは……どことなく気恥ずかしそうだったけど、なんだか誇らしげにも見えた。
「言われてみると確かに……結い方がそっくりですね」
「他の人には言わないでよ?絶対からかわれるだろうし」
「はい、わかりました」
今日の沖田さんは、本当に無邪気な顔をしている。
こうしてると悪い人じゃないのがよく分かり、いつの間にか私も彼に釣られるように笑みを漏らしていた。
そして少し我に返った私は、彼に頭を下げる。
「……すみませんでした。いきりなり図々しいことしてしまって。私……部屋に戻りますね」
私は沖田さんの顔を見ないようにして、背を向けた。
そして階段を登りきった私が、廊下を歩いているとーー。
「千尋ちゃん」
いつの間にか彼の声が、私を追ってきていた。
沖田さんは辺りを見回すと、誰もいないことを確認してから口を開く。
「君、僕の身体のことーー。誰にも言ってないみたいだね」
「……そういう約束でしたから」
「君が意外にも律儀な子だから、ちょっとびっくりしたよ。僕に義理立てする必要なんてどこにもないのに……」
そう呟いた彼の瞳はどこか悲しげに見えて、私は思わず口を開いた。
「私が黙っている理由は、沖田さんへの義理立てとかそういうのじゃないです」
私は沖田さんの目を真っ直ぐに見てから答える。
「もし誰かに言ったら……私、斬られちゃうんですよね?だから誰にも言いません。これからも、ずっと……ずっと」