第17章 亀裂の響き【沖田総司編】
「掃除か何かをしているようには見えないんだが……」
「実は、土方さんから近藤さんを捜してくれるように頼まれていたんです」
「なんと。手間をかけたな。トシは何か言っていたか?俺にどんな用がある、だとか」
「いえ、特に何も……」
私が首を横に振れば、近藤さんは少し考え込んだ。
「まさか、総司のことじゃないだろうが……」
近藤さんがふと呟いた言葉に、【ドクッ】と胸の鼓動が跳ねた。
「総司のこと……?何かやらかしたのかい?」
「そうじゃないんだが、最近調子が悪いだろう?風邪も長引いているようだし、トシが気にしているらしくてな」
「ははあ……。トシさんは、心配性なところがあるからな」
私は、二人に相槌も打つことが出来ずに黙って話を聞いていた。
沖田さんの体調が悪いのは、全て労咳のせいだ。
その真実を彼以外に、誰が知っているんだろう。
本当に、誰も沖田さんが労咳ということを知らないんだろうか。
「まあ、とにかく行ってみるか。伝えてくれてありがとう、雪村君」
「いえ……。私も自分の部屋に戻りますね」
「ご苦労様、雪村君」
私は近藤さんと井上さんに、頭を下げると踵を返すのだった。
あれこれと悩みながら、早足に部屋を目指している時である。
「あれ、千尋ちゃん?こんなところでどうしたの。千鶴ちゃんとは一緒じゃないの?」
「え……?」
突然、名前を呼ばれて驚いてしまう。
慌てて声の主を探せば、彼は階段に腰をかけてこちらを見ていた。
それもーー。
「どうかしたの、千尋ちゃん?僕がここにいると意外?そんな顔されると心外かなあ。僕がお化けか何かみたいだし」
「ど、どうしてーー」
朗らかに微笑んでいる彼は、濡れた髪の毛を肩に垂らし、普段とは少し違う雰囲気を作っている。
見るからにお風呂上がりらしい格好だけど……。
「どうしてそんな格好で外に出てるんですか!?」
「今日は珍しく暖かいし、日向ぼっこも悪くないよ?」
「ですが!沖田さんは体調不良で、ずっと寝込んでましたよね!?」
「うん。おかげさまで熱はちゃんと下がったみたい」
沖田さんはここ数日、熱を出して寝込んでいた。
確かに熱は下がったようには見えるけれどもーー。
「だからどうして、病み上がりでそんなことをーー」
「寝てる間に汗かいちゃったし、さっき一風呂浴びてきたんだ」