第17章 亀裂の響き【沖田総司編】
すると、土方さんが通りかかって近藤さんを見つけるとこちらへとやってきた。
「おっ、近藤さん。こんな所にいたのか」
「おお、トシ。どこに行ってたんだ?捜したぞ。次の将軍がだな、家茂将軍の後見人だった一橋慶喜公に決まったようだ」
「……やっぱり、あの人に決まったか。他にやる人なんざいねえんだから、もったいぶらずにさっさと引き受けりゃいいのによ」
「トシ、将軍公になられた方に向かってその言い方はないだろう。あの方は、東照神君家康公の再来と呼ばれるほど、英明な方なんだぞ」
彼らの話を聞きながら、一橋慶喜公とはどんな方なのだろうと想像する。
亡くなられた家茂将軍はかなり幕臣の方に慕わられていたと聞いているけれど、慶喜公はどんな将軍になられるのだろう。
「まあ、いい。将軍が誰になろうが、俺たちはその将軍の元で戦うだけだ」
「そうだな。俺たちが頑張れば、それだけ将軍公も徳川幕府も安泰ってわけだ」
新たな将軍が決まり、また平和な世が続いていく。
誰もがそう思っていたが、慶喜公が将軍に就任してから僅か二十日後の事だった。
突如、天子様が崩御された。
前将軍である家茂公の奥様である、和宮様の兄であり公武合体派の象徴ともあえる、孝明天皇の死は各方面に衝撃を与えたのだ。
後を次ぐ親王様は、十五歳のまだ幼い少年。
攻め込んできた幕府を返り討ちにした長州藩の動向も見えないまま、日本という国が急速にうごきはじめようとしていたーー。
ー慶応三年・三月ー
年が明け、京の厳しい冬がもうすぐで終わりを告げようとしている頃。
やっと肌を刺す冷気は消え始め、優しい日差しが降り注ぐようになった、とある午後のことーー。
「おお、雪村君。今日はいい天気だな」
「あ、近藤さん。こちらにいらっしゃったんですね」
私は近藤さんの姿を見つけ、その側へと駆け寄る。
そこには井上さんもいらした。
「井上さんもご一緒にいられたんですね……。外出していらしたんですか?」
「ああ。ちょっと境内をぐるりと散歩してきたのさ」
「本当は外に出たいんだが、勝手に屯所を離れてしまってはトシが怒るだろうからな……」
「ふふ……確かにそうですね」
近藤さんの言い草が何となく、子供の言い訳のように可愛らしく聞こえてしまって、私は小さく笑ってしまう。
「ああ。ところで雪村君は、どうして境内にいるんだ?千鶴君はいないが」