第17章 亀裂の響き【沖田総司編】
こうして、私は沖田さんと夫婦役として囮作戦を遂行することになった。
沖田さんと二人、並んで歩きながら大通りを見て回る。
そして時折チラリと沖田さんの方を見たりして、私は息を吐く。
(沖田さんと夫婦役だなんて……なんだか緊張する)
そう思いながら歩いていれば、突然沖田さんが私の手を掴んできた。
「な!?」
「夫婦役なんだからさ、もう少し夫婦らしくしなきゃ。そんなに離れて歩いてちゃ、夫婦には見えないでしょ」
「え、あ……でも……手は、繋がなくても……」
ぎゅっと沖田さんは大きな手で私の手を握ってくる。
骨ばっていて、所々カサついている大きな手に私はじわりと頬を熱くさせた。
「なに?恥ずかしいの?」
「だ、だって……」
「今日の僕たちは夫婦なんだ。手ぐらい繋いでないと」
「でも……」
「……顔赤いね」
ニヤリと笑う沖田さんは意地の悪い顔をしている。
なんでこの人はこんなにも意地悪なんだろうと、恥ずかしさや色んな気持ちでいっぱいになっている時だった。
「おや、お熱いねえ。こんな人通りで手を繋ぐなんて」
近くの八百屋の店主の方が、ニヤニヤと笑いながら声をかけてきた。
私はそんな八百屋の店主の言葉に顔を真っ赤にさせていれば、沖田さんがクスリと笑う。
「僕たち新婚なんです。だからついつい、ね」
「はは!仲睦まじいもんだねえ!奥さん、顔真っ赤にしちまってるな」
「恥ずかしがり屋なんです、僕の奥さん。でもこういう所が可愛いくて」
「か、かわ……!?」
ギョッと私は目を見開かせながら、沖田さんを見た。
「惚気られちまったねえ。だが気をつけるんだよ、お二人さん。最近、ここらは若い夫婦が襲われているからね」
「はい、ありがとうございます。じゃあ行こっか、千尋」
「え!?あ……、はい!」
突然、名前を呼び捨てされて驚いていれば、沖田さんはそんな私に構いもせずに手を繋いだまま歩き出す。
「名前を呼んだくらいで、そんなに驚かなくてもいいと思うんだけど?」
「だ、だって……」
何時もの沖田さんは私を【ちゃん】を付けて呼ぶ。
囮作戦として夫婦役をする為、【ちゃん】を付けて呼ぶのはおかしいのかもしれないけど、慣れないせいですごく恥ずかしい。
「そんなに顔真っ赤にしてさ、大丈夫?」
「たぶん……大丈夫です」