第17章 亀裂の響き【沖田総司編】
別室に案内された私は、部屋に用意された着物を見て少しだけ驚いてしまった。
菖蒲色に桜柄が散らばった着物は、見るからして高そうなもの。
「こんなの私が着てもいいのかな……」
着物を手にしながら、ぽつりと呟いた。
本当は千鶴にもこんな素敵な着物を着させてあげたい……と思いながらも私は急いで着物に着替える。
いつも男の子のように高く結い上げた髪の毛は、用意された桜の簪でまとめた。
「……久しぶりに女の格好をするなあ」
自分が着ている着物を見下ろしながら、久しぶりの女の格好に少しだけ違和感を感じてしまう。
長らく男装をし続けたせいなのかもしれない。
そう思いながら部屋から出れば、近藤さんとそこには沖田さんがいた。
「おお!雪村君、とても似合っているよ!別人のように見違えた!」
「へえ……馬子にも衣装って感じかな」
「馬子にも衣装……」
沖田さんの言葉は褒め言葉じゃないと思う。
そう思いながらも、沖田さんの姿に私は少しだけ目を見開かせた。
何せ、沖田さんは何時もの着物姿じゃないから。
何時もの袴姿じゃなくて、着流の姿。
「沖田さん……その姿」
「ああ……。囮作戦の夫役は僕がすることになったんだよ。誰がするかって話し合いの時に、土方さんが言い出しっぺが責任取れって言うんもんだから」
「そ、そうだったんですね……」
見慣れない姿に、私は少しだけ戸惑う。
なんだか格好が違うだけで、別人のように思えてしまう。
「なあに、千尋ちゃん。僕が夫役じゃ不満?」
「ふ、不満なんてありませんよ……!」
「本当かな」
ニヤニヤと笑う沖田さんから視線を逸らしていれば、部屋に土方さんが入ってきた。
「なんだ、女の格好をしてるとずいぶんと別人のように見えるんだな」
「おお、トシ」
「さてと、着替えたみたいだし、お前らには早速動いてもらうぞ」
「はあい」
「は、はい」
「お前らには夫婦役として大通りを歩いてもらう。その後、裏路地や人気のない場所を通ってもらう。犯行は人気のない場所や裏路地で行われているからな。俺たちは離れたところでお前たちの周りを固めておく。いいか、総司。お前は今日、町人に見えるようにする為に刀を持ってねえんだ。無理はするなよ」
「分かってますよ、土方さん。それじゃ千尋ちゃん、行こっか」