第16章 暗闇の音【沖田総司編】
そしてふと、近藤さんに前に金平糖を頂いたのを思い出した。
「沖田さん。私、前に近藤さんに金平糖を頂いたんです。お薬を飲まれたら、金平糖を差し上げるので飲みましょう?」
「……あのさ、千尋ちゃん。僕のこと子供扱いしてない?」
「え……?いや、そんなわけないじゃないですか」
内心ドキリとしてしまった。
慌てて私は沖田さんから視線を逸らしてみるが、沖田さんがじっと私を見てくるのが気配で伝わる。
「まあ、金平糖くれるならいいけど」
「じゃあ、お薬飲みましょう!白湯をお持ちしますから、お部屋で待っていてください」
「はいはい。君も大概お節介だよね」
沖田さんは面倒そうに言いながらも、自分のお部屋へと戻られた。
私は勝手場に向かうと、白湯と金平糖を持って沖田さんの部屋へと向かう。
そして沖田さんの部屋の前に辿り着いた時だった。
「ごほっ!げほっ……ごほっ、ごほっ!」
「っ、沖田さん。入りますよ」
苦しげな咳が聞こえて、私は慌ててふすまを開けた。
すると沖田さんは部屋の真ん中で、背中を丸めて苦しげ咳き込んでいる。
「沖田さん……!」
「大声、あげないで……!」
「あ……」
「そんなに、慌てる必要ないから……」
そう言う沖田さんの手には、べったりと赤黒い血が付着していた。
それを見た瞬間、私の喉は【ひゅっ】と音を鳴らす。
嫌でも沖田さんは労咳を患っている。
そう分からされる場面であり、私は息を飲みながら部屋の中に入り、ふすまを閉めた。
そして懐から懐紙を取りだして、沖田さんへと差し出す。
「これで、拭いてください」
「……ありがとう」
沖田さんはまだ苦しそうな顔をしながらも、口や手に着いた血を拭う。
「……ねえ、千尋ちゃん」
「言いません」
沖田さんが何を言うとしたのか分り、私は彼の言葉を遮るように言う。
「絶対に言いません。だから……薬、飲みましょう?」
無理に笑った。
ここで、私が泣きそうになってもどうにもならない。
だから無理にでも笑った。
「……なんて顔で笑ってるのさ」
そう呟きながらも、沖田さんは私が持ってきた白湯の入った湯呑みを手にした。
そして薬袋を手にして、一気に薬を煽る。
「にっがい……」
渋い顔をしながら、沖田さんは白湯で薬を飲み込んでいく。