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君ノ為蒼穹に願ふ【薄桜鬼真改】

第16章 暗闇の音【沖田総司編】


「金平糖、ちょうだい。千尋ちゃん」
「あ、はい。どうぞ」

金平糖の袋を差し出せば、彼は一つだけ摘んでから口へと放り投げる。
そしてまだ少しだけ渋い顔をしながらも、金平糖を噛み砕いていた。

「松本先生の薬って、苦いから嫌なんだよね。金平糖食べても苦い薬の味が薄れないよ」
「そうですか……」
「……だからさ、君がそんな顔しなくてもいいんじゃない?辛気臭い顔されると、こっちも辛気臭くなるんだけど」
「え、あ!ごめんなさい……!」

慌てて謝った時だった。
唇に固いものが押し当てられて、私は目を見開かせる。

「金平糖、食べなよ。甘いの食べて、何時もの呑気な顔してなよ」

唇に押し当てられたのは、金平糖だった。
私はゆっくりと金平糖を口の中に向かい入れると、沖田さんの少し冷たい指が唇に触れる。

「金平糖、美味しいよね」
「……はい」

金平糖を口の中で転がしながら、私は沖田さんの手の中に握られている血の色で染まった懐紙を見つめるのだった……。


そしてその晩、千鶴が戻ってきた。
そして土方さん達に坂本さんから聞いたという話を伝えたのである。

「成る程。綱道さんは西国にいた、と……」

坂本さんによると、父様は西国にいたとのこと。
なぜ西国にいるのかは分からないが……。

「その話、信じても構わんのかな?」
「ま、嘘を言う理由はねえだろうな。西国か……道理で見つからねえ筈だ」
「西国というだけでは、手掛かりとしては少し弱いですね。……雪村君、坂本からさらに情報を引き出すことはできますか?」
「私に、そんなことは……」
「何も、間者の真似をしろと言っているのではありません。坂本から便りがあればできるだけ会うようにして……その際に、それとなく探りを入れてくれればいいのです。……いいですね?」

山南さんの言葉には問いの形は取ってはいるけれども、彼の言葉の中には答えを強要するような響きが込められている。

「…………わかりました」

その後、広間をあとにした私と千鶴は自室へと戻っていた。
道中、千鶴はどことなく暗い表情を浮かべていて、それが気になってしまう。

坂本さんとなにかあったのか。
そう思ってそれとなく聞いたが、彼女は【なんでもない】とだけ。
それ以降は何も言ってはくれなかった。

千鶴が私に隠し事をしている。
その事実に少しだけ悲しくなったであった……
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