第16章 暗闇の音【沖田総司編】
「千尋ちゃん、坂本を警戒したり威嚇して話し合いする状況にならなさそうだもんね」
「ま、行くなら雪村姉だけだな」
すると、近藤さんは私たちの様子を複雑そうな眼差しで見つめながら呟いた。
「以前の、寺田屋での騒動のこともあるし、君を坂本に関わらせるのは気が進まないのだが……綱道さんの行方がわかるかもしれんというのであれば、反対するわけにもいかんか。……すまないな、雪村君。こんなことばかり頼んでしまって」
「いえ、そんな……。ようやく京に来た目的を果たすことができるのですから、私にとっても本望です」
「そう言ってもらえると、救われるよ」
「安心しろ。おまえの周りは幹部で固めてやるからよ。坂本がおかしな真似をしようとしたら、その場でぶった斬ってやるさ。その方が雪村妹も安心するだろう」
「そうですね、是非お願いします」
「そんな……!」
千鶴は新選組の方と坂本さんの間で、争いなんて起きて欲しくないようだ。
それに、坂本さんと再会出来るのに喜んでいるようで、私にしてみれば複雑である。
それから数日後。
千鶴は坂本さんと会う為に、屯所をあとにした。
「はあ……」
「君さ、それ何回目の溜息?」
境内を掃除しながら、ため息を吐いていれば後ろから声がした。
振り向けばつまらなさそうにしている沖田さんが立っている。
「仕方ないじゃないですか……千鶴が心配で。坂本さんがもし、千鶴に不埒なことをしたらと思うと……」
「まあ、安心していいと思うよ。あの子の傍は幹部で固めてあるんだから」
「そうですけど……」
着いていけば良かったかもしれない。
でも、私がいれば警戒して話にならないかもしれないし……と色んな気持ちで複雑な気分になってくる。
「て、それより沖田さん。松本先生からお薬出されたと聞いてますよ。ちゃんと飲みましたか?」
あれからも松本先生は沖田さんを気遣って、屯所に通ってくれている。
お薬も何種類か出してくれていると、松本先生から話は聞いていた。
「あれ、苦いんだよね。飲むの嫌」
「そんなこと言わずに飲まれてください。沖田さんの為なんですから。それに良薬口に苦しって言います」
「なんで良薬口に苦しって言うんだろうね。せっかくなら甘い薬があればいいのに……」
まるで子供みたいな事を言う……。
そう思いながら息を吐き出した。