第16章 暗闇の音【沖田総司編】
「君菊さん?」
「ああ、すっげえ綺麗な人だったぜ」
「そんなに綺麗だったっけ?」
沖田さんはまるで興味なさげ。
なんだか、沖田さんはまず女の人に興味なさそうだなと思う。
「綺麗だったって!つうか、あんな高そうな人呼んじまった左之さんの懐が心配だよ」
「そう。僕、女の人の良し悪しって、よくわからないな」
京の島原の芸妓さん。
平助君がこれだけ言うのなら、きっと凄く綺麗な女性なのだろう。
土方さんはとてもお綺麗な人だから、並んだら美男美女でお似合いなんだろう。
そう思いながら、ふと自分の男装姿を見下ろして虚しくなってきた。
「……どうかしたのか、雪村妹。暗い顔をしているようだが」
「あ、いえ。なんでもないです」
「疲れているようだな。そろそろ、我々は出た方が良さそうだ。それではな、雪村たち。ゆっくり休め」
「あっ、はい!ありがとうございます」
「ありがとうございます、斎藤さん」
そして皆さん方が部屋を出ていこうとする途中で、平助君がふと足を止めた。
「……なあ、山南さんの様子、近頃ますますおかしくなってねえか?」
沖田さんと斎藤さんは複雑そうな表情で暫く沈黙していた。
だがやがて、そのまま部屋をあとにしたのであった。
「江戸にいた頃から一緒だった幹部の人たちも、今の山南さんには不信感を抱き始めてるみたいだね……」
「うん。……これからどうなるんだろう」
その後、他の隊士の方々が島原から帰ってきて、私と千鶴は三条制札の事件を詳しく聞かせてもらった。
そこで皆さん達は妙に気になる情報を教えてくれたのである。
なんと隊士さんの一人が、三条大橋の現場で千鶴によく似た誰かを見かけたというのだ。
千鶴に似たその何者から新選組の邪魔をして、土佐藩士を逃がしてしまったらしい。
だが千鶴は当然、その時は屯所から一歩も出ていない。
それに千鶴が三条大橋にいたとして、新選組の邪魔をするはずない。
「千鶴によく似た人物……」
ふと、前に沖田さんと平助君と巡察に出た時に出くわしたとある女性を思い出した。
「南雲薫……」
千鶴によく似た女性。
まさか、彼女が……と思いながらも、私は色んなことを悩みながら過ごしていくのだった。