第16章 暗闇の音【沖田総司編】
「全てはこの薬をさらに完璧な物へと改良せしめる為だった……、そう思えてならないのです」
その言葉に私は目を見開かせた。
なにか取り憑かれたような不気味な光を宿している瞳、そして言葉に驚いてしまう。
「……どうしたのです?二人とも。私の言葉を、肯定してくれないのですか。あの素晴らしい薬を、この新選組に持ち込んだ綱道さんの娘の君たちが」
明らかに今夜の山南さんは、いつもと違う。
「なぜ、何も言わないのです?もしや君たちも、松本先生と同じように薬の実験をやめさせようなどと思っているのではないでしょうね?」
これ以上はなにか危険。
そう悟った私は千鶴の腕を掴んでから、その場から立ち上がった。
「あの、私と千鶴は用事を思い出したので、失礼します……!」
「……待ちなさい」
その場から立ち去ろうとした時、山南さんが乱暴に私の手首を掴んで引き止めてきた。
「っ……!」
私の手首を握ってくる左手には、人のものとは思えないような力が込められている。
とても振り解けそうにはない。
「あの、山南さん!離してくださいーー!」
思わず、山南さんの様子に恐怖心を抱いて叫んだ時である。
「女の子の手首をつかんで何してるんですか、山南さん。千尋ちゃん、怖がってるみたいですよ」
部屋に沖田さんと斎藤さんと平助君たちが入ってきたのだった。
「……意見を求めていただけですよ。少々、熱が入り過ぎましたが」
ふと、山南さんを見れば、彼の眼鏡の向こうに見える瞳はいつもの彼に戻っていた。
そのことに安堵していれば、山南さんは皆さんと入れ違いになるように立ち去ってしまう。
その背中を見送りながらも、私は沖田さんたちに向き直った。
「皆さん、お帰りなさい。ずいぶん早かったんですね」
「もっと、遅くなるかと思ってました……」
「左之さんと新八っつぁんは、朝まで帰ってこねえと思うぜ。さすがにオレは、体力が持たなさそうなんで途中で抜けてきたけどさ」
「じゃあ、帰ってきたのは、お三方だけなんですか?」
「へへへ〜……」
平助君はどこかご機嫌そうであり、そんな彼に私と千鶴は首を傾げた。
「どうしたの?」
「土方さんは、角屋にいた君菊って芸妓さんに気に入られたみたいだぜ。宴会の最中、ずっと隣にくっつかれてたからな」