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君ノ為蒼穹に願ふ【薄桜鬼真改】

第16章 暗闇の音【沖田総司編】


「え……沖田さん、お姉さんがいらっしゃるんですか?」

まさか、沖田さんにお姉さんがいるとは知らなくて、私はかなり驚いてしまった。

「ああ。両親を早くに亡くしているから、ミツさんが親代わりとなって総司を育てたんだよ」
「そうなんですね……。沖田さん、苦労してらっしゃるんですね」
「まあ、あいつは素直で前向きだからな。苦労したとは思っていないだろうが」
「あの根性曲がりを相手にそんなこと言えるのは、日本広しといえど、あんたぐらいだと思うぜ」
「あっ、土方さん」

近藤さんと話していれば、土方さんが苦笑を浮かべながらこちらへと歩いてきた。

「おっ、トシ。どうしたんだ?一緒に麦湯でも飲むか」
「いや、麦湯は別にいらねえが……三条大橋に立てられてる制札のことを知ってるか?」
「ああ、知っているとも。長州の罪状を記した札のことだろう?」
「……ああ。あの制札を引き抜いて、鴨川に捨てた馬鹿がいるらしい」
「無論、その話は聞いている。だがその制札は、後日立て直されたんじゃなかったのか?」
「そいつが、また引き抜かれちまったそうだ。そろそろ俺たちに声がかかるんじゃねえか」

そういえば、土方さんが話されているのを聞いたのを思い出した。
三条大橋の制札が引き抜かれて捨てられていたせいで、ちょっとした騒ぎが起きた。

「以前、札が引き抜かれたのは、確か夜中だったな……。であれば、山南君の羅刹隊を使ったらどうだ?」
「羅刹隊か……」
「何か、引っ掛かることでもあるのか?」
「あいつらは確かによく働いてくれるが……やり過ぎなんだよ。どんな役目につけても、関わった者を全て皆殺しにしてきちまう」

土方さんは苦い表情を浮かべ、私は思わず眉間に皺を寄せてしまった。

「しかも、それだけじゃ飽き足らねえ。元の形を留めねぇくらい、死体をバラバラに切り刻んだりしやがる。新選組の所業だと気付かれねえようにする為とはいえ……ありゃ、いくら何でもやり過ぎだ」
「バラバラに……」
「新選組は人殺し集団じゃねえ、死体で遊ぶのはやめろと、いくらいさめても直らねえ。あれじゃ、辻斬り連中と変わらねえ」
「むう……」

死体を元の形に留めないくらに、バラバラに切り刻む。
その言葉に思わず、あの夜、初めて羅刹を見た時を思い出して背筋がぞくりと震えた。
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