第16章 暗闇の音【沖田総司編】
突然現れた永倉さんに、相馬君と野村君は固まって沈黙してしまう。
そんな彼らに、永倉さんは不思議そうにしている。
「どうした?やりたくないのか?」
「…………は、はい!お願いします!」
「いや、俺はちょっと……仕事が……」
「おいおい、新人が遠慮なんてするなよ」
どうやら、二人は永倉さんとの稽古はあまり好んではいないらしい。
表情からそれを察して、私と千鶴は苦笑を浮かべていれば、相馬君は諦めたように野村君に小声で話しかけた。
「野村……あきらめろ。これも立派な隊士になるための試練だ」
「試練っていうか、あれはしごきだろ……」
「そんじゃ、ちょっくら二人を借りていくぜ!」
「は、はい……!二人をよろしくお願いします」
「あの、怪我は無いようにお願いしますね」
相馬君は諦めた様子であり、野村君は涙目で私と千鶴に助けを求めている。
だけど、二人は永倉さんに引き摺られる形で連れて行かれてしまった。
「……永倉さん、稽古というよりもしごきらしくて、新人隊士の方たちに嫌がられるみたい」
「……厳しいもんね、永倉さんの稽古」
二人が怪我をしないように祈ることにした。
「近藤さん、麦湯をどうぞ。身体の熱が下がるそうですよ」
私は中庭に居る近藤さんに、麦湯を差し出した。
「ん、む……、ありがとう。雪村君の煎れてくれたお茶は、飲みやすくてちょうどいいなあ」
「……ありがとうございます」
近藤さんは再び腕組みをしながら、難しい顔で考え事をし始めた。
家茂公が亡くなられて、先行きが不安な時期だ。
近藤さんの立場だと、色々懸念が多いに違いない。
これは、そっとしておいた方がいいのかもしれない……そう思って近藤さんの傍から離れようとした時、彼はぽつりと呟いた。
「……今、総司を松本先生に診せてるんだ」
その言葉に、ぴくりと私は肩を跳ねさせた。
(近藤さん……もしかして沖田さんの病名をご存知なのだろうか……)
そう思いながら、私は恐る恐ると近藤さんに尋ねた。
「……先生は、何と仰ってたんですか?」
「まだ、何とも……、重病でなければいいのだが。もし総司の身になにかあったら、あの人に申し訳が立たんからな」
「あの人……ですか?」
「京に来る前、総司の姉のミツさんからくれぐれもよろしく頼むと言われていてな」