第1章 始まり【共通物語】
だけど、今の悲鳴で私達は声を出してしまい、動いてもしまった。
すると立て続けに別の声が聞こえてくる。
「畜生、やりやがったな!」
「くそ、なんで死なねぇんだよ!……駄目だ、こいつら刀が効かねえ!」
すぐそこで、何かが起きている。
人の命を刈り取る可能性がある何か得体の知れない何かが間近にいる。
そんな事を考えると恐怖が襲ってきた。
でも、人は恐怖がありながらも興味心が溢れてしまい、それは千鶴も同じなのか路地から顔を出して駆けて来た道をのぞきこむ。
その時、私と千鶴の目に映ったのはーー。
「……刀」
月光に照らされた白刃の閃き。
浪士の前でひるがえる浅葱色の羽織。
あの羽織は見た事ないが、着ている人間達の名前ならば知っている。
「……もしかして、助けてくれたの?」
「そう、なのかな……」
でもそれは甘い考えだと、直ぐに分からされた。
「ひ、ひひひ……」
「た、助けーー」
浪士は命乞いをしながら、声震わせて後退るが浅葱色の羽織を着た人々は躊躇いなく刃を振るった。
「うぎゃああああああっ!?」
「ひゃはははははははは!!」
断末魔と同時に狂ったような甲高い笑い声が響き渡る。
そして何も躊躇いもなく、浅葱色の羽織を着た人々は浪士を滅多切りにしていた。
耳をつんざく絶叫は次第に弱々しくなり、ついには聞こえなくなり消えていく。
息絶えた、すぐそこで人が死んだのだ。
その事実に千鶴は足に力が入らなくなり、その場にへたりこんでしまい、私は体が震えて体から血の気が引けていく。
(……『また』目の前で人が死んだ)
怖いのに、見開いた目を閉じれない。
何度も何度も目の前で血が舞って、辺りの壁や地面はもう元の色が分からないぐらいに赤い。
「……こんなの、人間じゃない」
震えた声で千鶴が呟き、私もそう思ってしまっていた。
アレは人間じゃない、人間がする所業じゃない。
まるで壊れて狂っているようだ。
噎せ返る血の匂いは、『あの日』の記憶を呼び起こしてきて吐き気がしてきた。
息まで詰まりそうで、過呼吸まで起こしそうな時、千鶴の手が私の手を握る。
「……逃げなきゃ」
「ち、千鶴……」
そう言って千鶴は立ち上がったが、恐怖で体が痺れていたのだろう。
よろけて木の板を倒してしまい、辺りに音が響き渡ってしまった。
「千鶴……っ!」