第16章 暗闇の音【沖田総司編】
でも、今の【斬る】はただ悲しく聞こえるばかり。
「沖田さん……いつも、そればっかりですねーー」
涙が何故か込み上げてくるのを、必死にせきとめながら震える声で呟く。
隣からはかすかに苦笑する気配がたり、彼もまたひっそりと呟いた。
「……そうかもね」
すると沖田さんは静かに腰を上げた。
私も彼に続き立ち上がる。
「……沖田さん」
必死に涙を堪えながら、私は顔を上げて、彼の瞳を真っ直ぐに見つめる。
「何?」
心の中は、酷くもつれたまま。
でもこれだけはちゃんと答えないといけない。
「病のこと、黙っています。絶対に誰にも言わないと、約束します」
「……そう。ありがとう」
沖田さんはとても柔らかい微笑みを浮かべていた。
そして彼は、ゆったりとした足取りでその場から去っていった。
彼が立ち去った後、私は誰もいなくった中庭で一人たたずみ続けていた。
あんなに素直にお礼を言う沖田さんは初めて見た。
「……ちっとも、嬉しくない」
嬉しくなければ、酷く悲しくて胸が軋んで痛むばかり。
「沖田さん……」
頬を撫でる風が、やけに冷たく感じた。
その後、松本先生は新選組の方々の様子を見る為に、屯所に通って下さるようになった。
そして……山南さんは羅刹を束ねるようになり、羅刹の集団を【羅刹隊】と名付けたらしく、彼らは【羅刹隊】と呼ばれるようになる。
「【羅刹隊】……かあ。ねえ、千尋。本当にこのまま羅刹の研究を続けても大丈夫なのかな」
「……わからない。でも、山南さんは多分辞めないと思うよ」
私はあの後、千鶴に松本先生が言っていた、父様が尊攘派と関わりを持っていることを話していたことを伝えた。
千鶴は酷く驚き、動揺していた。
「なんで……父様が……」
「父様……」
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ー慶応二年・一月ー
一月も下旬に差し掛かった頃。
朝晩の厳しい冷え込みが随分と緩み始めた。
千鶴と私が境内で日課の掃き掃除をしていると……。
「よう千鶴、千尋、掃除中か?寒いのにご苦労だな。手抜きしちまってもいいんだぜ」
「あ、平助君に永倉さん」
「だいぶ暖かくなってきたから、大丈夫。平助君たちは、巡察の帰り?」
「ああ。町でちょっとした噂を小耳に挟んでさ……」
「噂?」