第16章 暗闇の音【沖田総司編】
「……なぜ、それほどまで、ここにいたんだね?」
「ーー僕は、新選組の剣ですから。ここにいることが、僕の全てなんです。新選組の前に立ちふさがる敵を斬る……、ただ、それだけなんですよ」
「……おまえさんの覚悟は、わかった。だがな、この病は悪化すると周りの人に迷惑がかかる。それはわかるな?今度は私の言いつけを守ってもわらねばならんぞ」
松本先生は厳しくも、何処か優しさが滲む声で沖田さんにそう言い放っていた。
「もし守れんのなら、すぐに近藤さんに言うからな」
「それってまさか、苦い薬とか飲まなきゃならないんですか?」
「当然だろうが。病人なんだからな」
「うわ、困った人に知られちゃったなあ」
明るく言葉を放つ沖田さんに、私は信じられない気持ちがあった。
労咳は死病。
治ったなんて聞いた事がないし、もしかしたら沖田さんは死んでしまうかもしれない。
(沖田さんが、死んでしまう……?)
そう思った瞬間、息が詰まりそうになった。
その場に崩れ落ちそうになるのを、何とか必死に耐える。
やがて沖田さんは、松本先生の顔を覗き込みながらいつものいたずらっ子のような笑みを浮かべた。
「……先生、近藤さんたちには言わないでくださいよ。約束ですからね」
暫く沈黙が流れる。
だけどやがて、松本先生は諦めたようなため息を吐いた。
「まあ、どうしても言えないことってのはあるだろうな。私もあの子達に、打ち明けていないことがあるんだ……」
松本先生が空を仰いでいた。
「綱道さんが、攘夷派の過激浪士連中と行動を共にしてるかもしれん、なんてなあ。とてもじゃないが、伝えられんよ……」
声が漏れそうになったーー。
(父様が、攘夷派の過激浪士と……?)
それを松本先生が知っているということは、松本先生は本当は父様の行方を知っていたということ。
「世の中、ままならないものですね」
「まったくだなあ……。まあ、これからは頻繁に新選組に通って、おまえさんのことを診てやる。だからくれぐれも、無理はせんようにな」
「わかってますよ。お気遣い、ありがとうございます」
松本先生が歩き去った後も、私はその場から暫く動ける事ができなかった。
(沖田さんが労咳……父様が、攘夷派の人たちと……)
松本先生の口からこぼされた言葉は、どれも信じられなくて衝撃な事ばかり。