第16章 暗闇の音【沖田総司編】
確か、こっちの方に来たはずなのにと首を捻る。
「おや、雪村君。誰かを探しているんですか?」
「あ……島田さん。沖田さんと松本先生を見かけせんでしたか?」
「沖田君たちなら、中庭の方に行ったようですが……」
「中庭ですね。ありがとうございます」
「急ぎすぎて転ばないよう気を付けてください。それでは、俺はこれで」
「はい、それでは」
頭を下げてから、遠ざかる大きな背中を見送ってから私は改めて考える。
「中庭か……」
このまま、お二人を追いかけるか。
それおも裏道を通ってから中庭に先回りするべきか……。
どうすれば良いんだろうかと考える。
「……追いかけよう」
私はそのまま、お二人を追いかけることした。
そして中庭の方へと歩いていくと、二人の姿を見つける。
(……いた)
二人は縁台に腰掛けてから、深刻な様子で何かを話し込んでいる。
その様子を見てから、私は物陰に身を潜めて二人の会話に耳を傾けた。
(立ち聞きのようで気は引けるけど……)
何だか胸騒ぎがしたのだ。
「結論から言おう。……おまえさんの病は、労咳だ」
松本先生の言葉に、喉がヒュッと音を鳴らした。
慌てて両手で口を塞いでから、目を見開かせてからその場に固まってしまう。
まるで、全身の血の気が引いたような感覚がする。
鼓動がどんどん早くなっていく。
(今……松本先生、なんて……?)
労咳と今、松本先生は言った。
「……なんだ。やっぱりあの有名な死病ですか」
「驚かないのか?」
「そりゃあ、ただの風邪がこんなに長引く筈もないですしね」
私の身体は震えていた。
(沖田さんが、労咳……?)
喉から声が漏れそうになり、必死に口を塞いで堪える。
身体とは別に、かたかたと歯が震えていた。
「……でも、面と向かって言われると、さすがに困ったなぁ。あはははは」
「笑いごとではなかろう」
「これでも、困ってるんですけどね」
「……労咳の一番の薬は、静養だ。新選組を離れて、精のつく物を食べて、ゆっくり身体を休めなきゃいかん」
「それは、できません」
沖田さんは、きっぱりとそう告げた。
「そうせんと、身体は悪くなるばかりだぞ。今はそうやって平気なふりができても、いずれ、布団か、起き上がることすらできなくなる」
「じゃあ、その時までここにいますよ。血を吐きながら、それでも刀を取ります」