第16章 暗闇の音【沖田総司編】
「確か……松本良順と言ったかしら」
伊東さんの口から出た名前に、私と千鶴は目を見開かせて驚いた。
そして千鶴と私は慌てて伊東さんに、再度質問をする。
「そのお医者様って、松本良順先生なんですか!?」
「あの、幕府御典医の松本良順先生ですか!?」
「な、何よ二人してその反応?知り合いなの?」
松本良順先生。
彼は幕府の御典医であり、父様と懇意にされている方でもあり、私たちが京に来た時に頼る予定だった方。
京に来た時は行き違いになっていて、お会いすることは出来なかった。
だけどまさか、ここで松本先生にお会い出来る事ができるだなんと思わず驚いてしまう。
「私たちも、健康診断に行ってきます!千尋、行こう!!」
「うん!伊東さん、失礼します!!」
私たちはいても立ってもいられず、伊東さんに頭を下げてから健康診断の会場へと走って向かう。
すると、後ろから伊東さんの呆れた声が聞こえてきた。
「まあ、あんな所に行きたがるなんて、なんて物好きなのかしら」
そして、私たちは土方さんから聞いていた健康診断の会場である広間の前に辿り着いた。
「……ここかな?」
「たぶん……隊士さん達の声も聞こえるから、ここだと思う」
中からはざわざわと、騒がしいぐらいの隊士さんたちの声が聞こえてくる。
私と千鶴はこっそりと、ふすまを開けて中を覗けば………。
「………へ!?」
広間で繰り広げられている異様な光景に固まり、私はすぐさまに千鶴の目を掌で隠した。
「よし、次の人」
「おう!俺の番だな!いっちょ頼んます先生!ふんッ!どうすか!?剣術一筋で、鍛えに鍛えたこの身体!」
「新八っつぁんの場合、身体は頑丈だもん。診てもらうのは頭のほうだよな」
「あぁん?余計なこと言ってると締めるぞ、平助」
広間では、永倉さんが謎の格好を取ってご自身の筋肉を見せていた。
私はその光景に唖然としながらも、千鶴には見せてはいけないと思い、千鶴の目を隠し続ける。
「千尋……?あの、なんで目を隠すの?」
「千鶴は……見ない方が、いいかもしれない」
「え?」
これは千鶴に見せたら教育上よろしくない。
「んー永倉新八っと……よし、問題ない。次」
「ちょ、先生!もっとちゃんと見てくれよ!」
「いやいや、申し分ない健康体だ」
「新八。後ろがつかえてるんだから、さっさと終わらせろって」