第16章 暗闇の音【沖田総司編】
立ち去ろうとしている背中に千鶴が声をかけると、坂本さんはゆっくりとこちらを振り返る。
「……そうゆうたら千鶴、手紙に書いちょったにゃあ。俺に話がある、いうて」
「え?あ、えっと、それは……」
そういえば、手紙は千鶴の名前で出していたことを思い出した事を思い出した。
だから坂本さんは千鶴が用事があるからと思って手紙を出したと思っているはず。
「近藤さんよぉ、ちっくと二人きりにさせてくれんろうか?」
後ろに居並ぶ幹部の皆さんの剣呑な様子に、近藤さんは一瞬迷った様子を見せた。
だが人の良い笑みを浮かべて頷いた。
「……わかった。今日は、わざわざすまなかったな」
一言そう告げた後、他の隊士さん方と共に広間へと戻っていく。
「千鶴、私も広間に戻ってるね」
「あ、うん。わかった」
「坂本さん」
「何や?」
私はじっと坂本さんを見つめてから、眉間に皺を寄せる。
「千鶴に変なことしないでくださいね」
「警戒心が強すぎるな、おまん。大丈夫、二人きりになったき言うて変なことはせん」
「その言葉、信じてますからね」
私は釘をさしてから、広間へと戻った。
そしてふすまの近くに腰掛けてから、廊下の方へと視線を向ける。
坂本さんの言葉は信じているけれど、ああいう感じの人はどうも警戒してしまう。
軽い感じがするというか、人を食ったような感じというか……。
「千尋ちゃん、そんなに眉間に皺を寄せて廊下の方見なくてもいいんじゃない?」
「え?」
「そんなに心配なら、千鶴ちゃんの傍にいれば良かったじゃない?」
沖田さんは面白そうに笑いながら言ってくる。
「……坂本さんは、千鶴と話がしたいだろうと思ったので……。でもあの人、信用出来ないんですよね」
「どうして?」
「父様が……軽そうな男は信用するなって」
「じゃあ、左之さんとかは信用出来ないね」
「おい!別に俺は軽い男じゃねえぞ!?」
しばらくして、千鶴が広間に戻ってきた。
そして私は千鶴や他の隊士さんたちとともに、坂本さんを見送ることになった。
「ほいたら、またにゃあ。次はこんな姑息な真似をせんと堂々と招待してや」
坂本さんの皮肉に、土方さんは顔をしかめていた時だった。
「坂本!」
先日町で会った、中岡慎太郎さんが坂本さんの元に走ってきた。