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君ノ為蒼穹に願ふ【薄桜鬼真改】

第16章 暗闇の音【沖田総司編】


「土方、言うたかにゃあ。おまん、勘は悪うないけんど……まだまだ頭が固いにゃあ。この先、外国がどうこうするとして、黒船を手に入れたり戦をしたりするにしても、金が要る。今は、日本人同士でせせこましゅう争いゆう場合やないき」

坂本さんは静かな口調で、まるでたしなめるかのように語っていく。

「浪人を何十人斬って得意になっても意味がない。それより金をかき集めて日本という国を強いからうせんといかん」
「何だと……!?」

不逞浪士の取り締まりをしている役目をされている自分たちを馬鹿にされたと取ったのか、土方さんは目を剥いた。

「待て待て!待ちたまえ、君たち!」

立ち上がりかけた土方さんを制したのは、それまで静かに話を聞いていた近藤さんだった。

「近藤さん、あんた……今のこいつの言葉を聞いてなかったのか?」
「聞いていた。……だが、この者に手を出すなというのは、会津公のご命令だ」
「んなことは関係ねえ。こいつは、あの池田屋事件と関わりがあるんだぜ?しかもさっき、長州を庇うような発言をしてやがった。大方、あいつらと裏で繋がってるんじゃねえか」
「会津公だけでなない。土佐藩の山内公、それに幕臣の勝殿もこの者の身元を保証すると仰っていた」

近藤さんの言葉に、土方さんは拳に握りしめてから力を込めて板張りの床を殴りつけた。
その音に驚いて身体を少しだけ跳ねさせてしまう。

「ーーくそったれが!」

広間には再び静寂が戻り、坂本さんは近藤さんへと視線を移した。

「……おまんが新選組の親玉かえ?」
「ああ、新選組局長の近藤勇だ。君が、土佐浪人の坂本君か」

その問いに、坂本さんは普段見せる人好きする笑顔を浮かべることはなかった。
ただ、冷徹な眼差しで近藤さんを見つめている。

「……おまん、余計なことをしてくれたにゃあ」
「どういうことかね?」

近藤さんは坂本さんの言葉に怪訝そうに問うが、坂本さんはその問に答えようとはしない。

「……まぁ、えいわ。疑いはとう晴れたろう?ほんなら俺は帰らせてもらうぜよ」

彼はそう言い残すと、廊下へと出てしまった。

「ちょっと待ってくれ。外まで送ろう」

近藤さんが慌てて立ち上がり、私と千鶴へと目配せする。
その目配せに私達は頷いてから、慌てて坂本さんの後を追った。

「あの、坂本さん……!」
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