第16章 暗闇の音【沖田総司編】
そして、千鶴は手紙を書いてから翌日、山崎さんにお願いしてから手紙を届けてもらった。
それから数日のこと。
坂本さんからの返事はなく、私と千鶴は少し困りながらも彼からの手紙の返事が来るのを待ち続けていた。
「坂本さん、あんな手紙を急に渡されたから戸惑ってるのかな?」
そう呟きながらも、私は洗濯物を取り込んでいた。
「なに、一人でブツブツ呟いてるの?千尋ちゃん」
「きゃっ!?」
突如、後ろから声をかけられた。
驚いて悲鳴をあげてから後ろを振り向けば、そこには沖田さんが立っていた。
「お、沖田さん……」
「そんなに驚かなくてもいいじゃない?で、何一人で喋ってるのさ」
「いえ、あの……坂本さんから返事がないなって」
「ああ、坂本龍馬ね。警戒してるんじゃない?」
「そうかもしれませんね」
たかが数回会っただけだから、急にあんな手紙を出されて警戒しているのかもしれない。
そう思いながら、洗濯物を取り込んでいる時だった。
ぶわりと強い風が吹き上げて、干していた大きな手拭いが私の頭を被さってしまった。
「わっ!?」
「何やってるさ、千尋ちゃん。お化けにでもなるつもり?」
「そ、そんなつもりは!」
モゴモゴと動きながら洗濯物を取ろうとするが、上手く取れない。
「君、案外鈍臭い?仕方ないなあ、取ってあげるよ」
「あ、ありがとうございます……」
沖田さんはため息を吐き出しながらも、私の頭を被っている洗濯物を取ってくれた。
すると彼は洗濯物を手にしてから、私をじっと見てくる。
「お、沖田さん……?」
「これ、白い布だからさ……君が頭から被ってると、まるで白無垢の綿帽子みたいだね」
にっこりと笑いながら、沖田さんは洗濯物を私の頭に被せてくる。
「白無垢の綿帽子……?」
「うん。そう見える。いつか君は、誰か男の人の元に嫁いで、こうして白無垢を身にまとうんだろうね」
「そう、なるでしょうか……」
「……さあ?でも君、口うるさいからお嫁に行けないかもね」
「な!!」
「まあもし、お嫁に行けなかったら僕が貰ってあげてもいいよ」
その言葉に私は目を開かせた。
「冗談だよ。僕なんかに嫁いだら、可哀想だしね」
「え…」
「いつか、素敵な人の所に嫁げたらいいね。千尋ちゃん」
そう言うと、沖田さんは私の頭を撫でてから何処かへと歩いていった。