第16章 暗闇の音【沖田総司編】
「だか、その海軍操練所も今はなく、坂本は、幕府の後ろ盾なとないただの浪人に戻っている」
「にも関わらず、京や大阪をフラフラしてやがるのか。……くせえな」
私は眉間に皺を寄せた。
永倉さんの言う通り、何か裏がありそうだと思った。
「だからこの機会に、坂本を取り調べておこうと思ってるんだが……」
土方さんはそう言って、傍らにいる山崎さんへと視線を送った。
山崎さんの表情は何処か困ったような、そんな表情。
「坂本は用心深い男でな。俺や島田君が何度も尾行したんだが、途中でまかれてしまった。今、寺田屋を本拠地にしているのは確かなんだが、我々が行っても警戒して姿を現さない」
なんだか、この話の流れ的に……と眉間に皺を寄せていれば、土方さんは私が思っていたことを言葉にした。
「……おまえ達、坂本を呼び出してみてくれねえか」
「坂本さんをですか!?」
「そんなーーできません!」
「私や千鶴は、患者や内偵の才能はありませんし……」
「それに、坂本さんは……悪い人では……」
私たちの言葉に土方さんは眉間に皺を寄せた。
「……勘違いするな。取り調べるたって、荒っぽい真似はしやしねえよ。土佐藩は、勤王党にいた連中を捕まえて処罰しようとしてるらしいから、先に、俺たちが保護しようってんだ」
「土佐藩士の癖に幕府の操練所にいたってことは、幕府の協力者かもしれねえしな」
「あ……、言わてみれば確かに……」
どうやら土方さん達は、坂本さんを新選組の味方に引き入れて、土佐について色々聞き出そうとしているらしい。
「……わかりました。それじゃ、坂本さんが泊まっている宿に手紙を出してみます。ただ、坂本さんとは何度か会ったことがあるだけですから、応じてくれるかはわかりませんけど……」
「構わねえ。すぐにでも取り掛かってくれ」
「……はい。それでは失礼します」
「失礼します」
私と千鶴はその場で一礼してから、広間を退去した。
それから私は千鶴の部屋へと向かった。
「手紙といっても、どんな内容で書けばいいんだろう……」
千鶴は筆を持ってから【うーん】と唸る。
「本当の用件は話せないから……【早急にお話したいことがあります】で良いんじゃないかな」
「そうだね、そう書くことにする。……坂本さんが読んでくれるかどうか分からないけど……」
「そう、だね……」