第16章 暗闇の音【沖田総司編】
風間千景の言葉に、土方さんはゆっくりと目を細めていた。
あの男の発言の真偽を探っているようで、彼の眼光の色は鋭くなっている。
「へっ……こいつのツラを拝むのは、禁門の変以来だな……」
「腐れ縁ってとこか?……大してうれしくもねェがな」
「再会という意味では、こちらも同じくだ。……だが、なんの感慨も湧かんな」
「我々の邪魔立てをするつもりですか。ならばーー」
原田さんは不知火匡を、斎藤さんは天霧九寿の目の前に立ち塞がっていた。
鋭さを纏った空気が流れ、私は思わず息を飲んでいた。
今すぐにでも、争いが始まりそうな空気感であり、私は目眩を消すために軽く頭を振る。
(目眩ぐらいで、こんな事になってる場合じゃない。私の役割は、千鶴を守ることだ……)
刀の柄を更に強く握り締めた時だった。
視界の横で、黒いものが動いてから声が聞こえてくる。
「副長たちの心配は無用だ」
「山崎さん、いつの間に……!」
「山崎さん……!?」
「……副長の命令だ。君たちは、このまま俺が屯所に連れて行く」
千鶴は、山崎さんの言葉に少しだけ眉間に皺を寄せていた。
「ここから逃げろってことですか?」
「その通りだ。君たちがここにいても、できることは何もない」
確かにその通りかもしれない。
千鶴の安全の為にもと、私は千鶴の腕を引っ張り、山崎さんの後について屯所に戻った。
屯所に戻ったあとも、私は背後の暗闇を睨んでいた。
まさかと思うけど、ここまでついてきていないのだろうかと不安になってしまう。
「もう、大丈夫だ。さすがに、ここまで追ってはこれまい」
「ですが……」
「……不安なところ申し訳ないが、俺は、副長たちの所に戻らなくてはならない。皆、将軍公の警護に出ているから、今の屯所に、隊士はほとんど残っていない。沖田さんか藤堂さんの所にいるのがいいだろう。そこが最も安全だ」
「……はい。わかりました」
「では、後のことは頼んだぞ」
山崎さんはそれだけを言い残すと、再び闇の中へと消えていってしまった。
「あの人達、何だったんだろう」
夜の静けさの中で、千鶴の言葉だけが響く。
「私と千尋を同じ【鬼】だと言ってたけど……」
「……さあ。取り敢えず、沖田さんか平助君の所に行こうか」
「うん」
私たちはそれぞれ、平助君と沖田さんの所に向かうことにした。