第16章 暗闇の音【沖田総司編】
「その【なぜ】っつうのは、どうやってここに立ち入ったのかを訊いてやがんのか?だったら、答えは簡単だ。オレら【鬼】の一族には、人間が作る障害なんざ意味を成さねェんだよ」
【鬼】という言葉に、私の心臓が強く跳ねる。
「我々は、ある目的の為にここに来た。……君たちを捜していたのです、雪村千鶴、雪村千尋」
「え……?」
天霧九寿の言葉に、千鶴が小さく声を漏らし、私の心臓は激しく鳴り響いていた。
そして、千鶴は困惑したかのように彼らに言葉を投げかけた。
「……あ、あなた方が言っている言葉の意味がわかりません。【鬼】とか、私たちを捜していたとか……。私たちを、からかっているんですか!?」
「……【鬼】を知らぬだと?本気で言っているのか?」
風間千景はいつの間にか私たちの目の前に立っていた。
そして、闇を背に抱いきながら一歩ずつ踏み出して近寄ってくる。
心臓が痛い。
私は息をゆっくりと吐きながら、刀の柄を強く握り締める。
すると、天霧九寿が静かに低い声でまるで子供をいさめるように言葉を発した。
「君たちはーー負った傷が、すぐに癒えませんか?」
「っ……」
「並の人間とは思えぬ程、怪我の治りが早くありませんか?」
辞めて、それ以上は何も言わないで。
そう叫びたいのに、言葉が喉に引っかかって何故か出てこない。
すると、千鶴が背後で動揺しているのが伝わった。
「そ、そんなことは……」
「あァ?なんなら、血ィぶちまけて証明したほうが早ェか?」
不知火匡が手にある銃を動かせば、月に照らされて不吉な光が帯びる。
その銃は千鶴へと向いていて、私は咄嗟に叫んだ。
「千鶴に手を出さないで!!」
「千尋……」
すると、風間千景は不機嫌そうに不知火匡を睨みつけると唸るような低い声を出した。
「……不知火。貴様、貴重な女鬼たちに傷を負わせるつもりか?」
「ンなこと言われても、こいつらの往生際が悪ィんだからしょうがねえだろうが。そっちの奴は、一丁前に殺気を出してやがるし」
風間千景は再度、不知火匡を睨みつけると、千鶴の腰にある小太刀と私の腰にある刀へと交互に目を向けた。
「……多くは語らぬ。鬼を示す姓と、東の鬼が待つ小太刀と刀……証拠としては充分に過ぎる」
「姓……?雪村の姓が、何だっていうの……?」