第16章 暗闇の音【沖田総司編】
「……はい」
不逞浪士の中では、腕に覚えがある者は大勢いる。
巡察に出れば、そんな不逞浪士達と斬り合いすることだってそう珍しくないはず。
刀を帯びた者と全力で斬り合う。
だから怪我をしたり、最悪命を失うことだってあるはず。
「……京に来たばかりの頃は、とにかく人手が足りなくてね。僕たちの名前なんて全然知られてないし、給金だって満足に出なかったからさ。入隊希望者なんて滅多にいないし、たまに来ても、得体のしれない破落戸ばっかり。……そんな時、幕府の人が【薬】の実験を持ちかけてきたんだ」
それが、父様が関わっているという山南さんが言っていたあの薬のことだろう。
「沖田さんたちは、【薬】の副作用を知っていて、隊士の方々に【薬】を……?」
山南さんの様子を見て、あれがまともな薬じゃない事は一目瞭然。
「もちろん。彼らも承知の上だよ。……新選組にはね、局中法度っていうのがあるんだ。隊をまとめる為の決まりみたいなものなんだけど……それに背くと、即切腹を申し付けられる」
「切腹……」
「あれ、何驚いてるの?武士の責任の取り方っていえば、切腹しかないじゃない」
それは知っている。
武士達が失態を演じた時、彼らは切腹をして責任を取るという。
だが、それも廃れてしまっていると聞いた。
だからせいぜい扇で切腹の真似事をしているだけと、そう聞いている。
なのに、新選組の人達は真似事ではなく本当に切腹をしているなんて……。
「……でもまあ、どうせ死んじゃうんだし、最後にもう一度役に立ってもらった方がいいでしょ?だから、切腹するか薬を飲むか、好きな方を選んでもらうことにしたんだ。……可哀想だよね、本当に」
その言葉に、私は何も答えられなかった。
切腹すれば死ぬが、薬を飲めば生き残るかもしれない。
あの夜、私と千鶴を襲った隊士の方々もそんな希望を賭けて理性を失ったのだろうか。
そう思うと、やるせない気持ちになってしまい、下を向いて唇を噛む。
「……簡単に強くなれる薬があれば、便利だよね。実際、全然大したことなかったんだけど。僕たちでも簡単に斬っちゃえるぐらい」
その言葉に、あの夜のことを思い出す。
沖田さんと斎藤さんが、あの隊士の方々を意図も簡単に斬り伏せていた事を。
「……山南さんは、これからどうなるんだろうね」