第16章 暗闇の音【沖田総司編】
沖田さんの言葉に、私は障子戸の外へと視線を向ける。
(山南さん……大丈夫なのだろうか)
あの【薬】は、山南さんを変えてしまうのだろうか。
そう思うと、胸の中では不安ばかりが渦巻いてしまう。
「君、そういえば血が苦手なんだってね。だから倒れたのかな?」
「え?あ……そうかもしれません。あの、私をここに運んだのって……」
「ん?僕だけど」
やっぱり……と心の中で呟いた。
私がいるのは、土方さんから与えられた私の部屋であり、とうてい千鶴の力では私をここに運ぶのは無理だろうと思ってはいた。
「あの、ありがとうございました」
「どういたしまして。じゃあ、僕はもう行くから」
ひらりと手を振り、沖田さんは部屋を後にしたのだった。
長い夜が明けた。
新選組の幹部の方々は皆、広間に集まっていて、どこか暗い表情をしている。
すると、広間のふすまが開いて井上さんが姿を見せた。
「……皆、安心してくれ。峠は越えたようだよ」
井上さんの、その言葉に場の緊張がやや緩んだ気がした。
「で、どうなんだ?山南さんの様子は」
「今は、まだ寝てる。静かなものだよ」
「今までの隊士たちみてえになっちまってるのか?それとも……」
不安げに永倉さんが問いかけると、井上さんは静かに首を横に振った。
「……確かなことは、目を覚ますまでわからんね。見た目は、昨日までと変わらないんだが」
そんな時だった。
不意にふすまが開いて、広間に伊東さんが姿を現したのである。
「おはようございます、皆さん。ご機嫌いかがかしら?」
「うげっ、伊東さん……」
「【うげ】とはご挨拶ですのね。皆さん、お顔の色がすぐれない様子ですけど」
「そりゃ、朝っぱらからあんたの顔を見たせいに決まってるだろうが」
「まあ、永倉君ったら。冗談がお上手ですこと」
伊東さんは、永倉さんの言葉を軽く受け流すと、居並ぶ隊士の方々を見回してから言った。
「……皆さんの顔色がよろしくないのは、もしかして、昨晩の騒ぎと関わりがあるのかしら?」
「あ、いや、その、だな……」
伊東さんの問に、幹部の方々は少しだけ動揺した様子を見せる。
その中で、近藤さんは助けを求めるように周りに視線を送っていた。