第16章 暗闇の音【沖田総司編】
安堵した時、私はくらりと目眩を感じた。
そして身体がゆっくりと倒れていき、視界が真っ暗になっていくのを感じる。
倒れてしまう。
そう思った時、千鶴が私の名前を呼ぶ声が聞こえたーー。
「あ、れ……?」
ふと、意識が浮上する。
瞼を持ち上げれば、見慣れた天井があり、横からは溜め息が聞こえた。
「目が覚めた?……まったく、手間がかかる子だよね。君って」
「沖田さん……?」
「覚えてる?君さ、あの後突然意識を失ったんだよ」
「あ……」
沖田さんの言葉に私は目を見開いた。
そして慌てて起き上がれば、沖田さんはまたため息を吐きながら私に問いただす。
「さっき、千鶴ちゃんにも聞いたけどさ。君も説明してくれるかな。どうして山南さんと一緒にいたの?」
彼の声色は厳しいものだった。
そんな声に少しだけ萎縮しつつも、私はたどたどしく説明することにした。
「広間の方から、人の気配がしまして……。気になって千鶴と覗いてみたら山南さんがいたものですから……」
「……ふうん」
沖田さんは興味なさげに声を漏らす。
そこで、私は気になっていたことを彼に訊ねた。
「あの、沖田さん。山南さんが飲んだあの【薬】に父様が関わっていたというのは、本当なんですか?」
「……山南さんから聞いたんだよね。千鶴ちゃんも同じことを聞いてきたよ」
「……はい。あの【薬】は人を強くする代わりに、精神を狂わせてしまう……そう、聞きました」
私の言葉に、沖田さんは物憂げな表情を浮かべて暫く天井を見上げていたが、やがて口を開いた。
「君は薬をここに持ち込んだ人の娘だし、狂った隊士とも実際に会ってるし……少しぐらいなら、聞かせてあげてもいいかな。千鶴ちゃんにも、もう話したし。……本当なら、殺しちゃいたいところだけど」
その言葉には、いつもの冗談めかしたものはなかった。
明らかに明確な殺意が込められている。
彼は、いつでも私と千鶴を殺せる。
それを実感しながらも、私は小さく頷いた。
「【薬】のことについて、なにか質問ある?ひとつくらいなら答えてあげるけど」
「……どうして新選組の皆さんは、そんな【薬】に関わっているんですか?」
「僕たちの役目は、京を騒がせる不逞浪士を取り締まることだけど……簡単な仕事じゃないっていうことぐらい、君にだってわかるよね?」