第16章 暗闇の音【沖田総司編】
「安心してください。きちんと、僕が介錯してあげすまよ」
「……飲み込みが早くて、助かりますよ。さすが、新選組の剣だ」
沖田さんの言葉に、山南さんは安堵したように微笑みを返している。
二人のやり取りを見にしてもなお、これから何が起きるのか分からなくて……否、信じたくなかった。
「沖田さん……まさか、山南さんを斬るんですか?」
私の言葉に千鶴が息を飲むのが聞こえた。
「冗談ですよね……」
声を震わせながら聞けば、沖田さんはわずらわしげに視線を向けてくる。
「……千尋ちゃんさ。やめてくれないかな、そいうの。よそ者は黙っててよ」
「ですが……!」
「うっとうしいんだよ。新選組隊士にでもなったつもり?」
氷のような視線に言葉がつまる。
屯所に来てからは随分と立ち、当初感じていた恐怖や警戒心も薄れてきて、馴染んた気分でいたけれども……。
「忘れたって言うんなら、もう一度言ってあげるよ。千尋ちゃんと千鶴ちゃんは利用価値があるから生かしてあげてるだけで、僕たちの仲間じゃない」
その言葉が酷く重く、容赦ない。
やがてーー。
「……っぐぁぁ!」
山南さんが呻き声を上げながら、床を蹴るのが見えた。
そして次の瞬間だった。
酷く不吉な、肉を切り裂くような音が暗闇にこだまする。
そして目の前に赤黒い血が舞った。
「……が……!」
沖田さんの背の向こうで、誰かが床に倒れる気配があつた。
そして彼の足元に、どす黒い血溜まりが広がっていき、喉がひゅっ……と音を鳴らす。
「あ……」
倒れている山南さんを見て、目眩を感じた。
そしてふらりと無意識に彼へと近づいた時だ。
「……近付かない方がいいよ」
「でも……」
「何度も言わせないでくれる?近付くなって言ってるでしょ。深手は負わせたけど、また襲いかかってこないとは限らないしね」
「え……?」
「あの薬を使ったら、この程度じゃ死ねないんだよ」
彼の言葉に私は目を見開かせた。
そして千鶴が驚いたように言葉をこぼした。
「じゃあ……山南さんは、生きてるんですか……?」
千鶴が震えた声で尋ねると、沖田さんは皮肉を込めた微笑みを浮かべなから答えた。
「……死ねないって言ってるんだから、生きてるに決まってるでしょ」
「良かった……」
無意識に私の口から安堵した言葉が零れるのだった。