第16章 暗闇の音【沖田総司編】
「でも、そんなのって……」
「君たちには、わからないかもしれませんね……」
山南さんの言う通りかもしれない。
それは剣で生きる人ではないとわからない気持ちなのかもしれない。
私や千鶴の言葉では山南さんを止めることはできない。
そう思っていた時だった。
脳裏に一つの言葉が蘇る。
『……もし怖いものを見たら、すぐに声を上げて助けを呼ぶんだよ』
沖田さんの言葉が私の脳裏に蘇る。
私と千鶴が止めることができなくても、山南さんと同じ道を歩いてきた人ならば……。
そう思った私は屋敷に響こ渡るように、ありったけの声を振り絞った。
「沖田さん!!!!」
私が、沖田さんの名前を叫んだ時だ。
「……っ……」
山南さんは、血のように赤黒い液体を一息で煽っていた。
「山南さん!!」
山南さんの手のひらからは小瓶が落ちた。
彼は苦しげに顔を歪めると、その場に膝をついた。
「ぐぁ……が……!」
「山南さん……っ!!」
すると、彼の髪が一気に白へと変じていく。
瞳は血のように赤い色へと変わっている。
「ぐ、うっ、う……!」
その苦しみようは、明らかに尋常ではない。
「山南さん!しっかりしてください!」
千鶴が山南さんに駆け寄った時、彼の瞳に狂気が渦までいるのに気がついた。
その瞳は京に訪れた時に目にしたもの。
「千鶴、下がって!!」
千鶴の腕を引っ張り、私の後ろへとやった時、後ろで襖が開いた音が聞こえた。
山南さんは、私の背後へと視線を向けると言葉をこぼした。
「沖田君……ですか……」
「……こんばんは。山南さん」
背後にいたのは沖田さんだった。
彼の瞳には私や千鶴の姿は映ってはいない。
山南さんを見やった後、転がる小瓶へと視線を移して、ようやく私と千鶴へと目を向ける。
「……教えてくれてありがとう、千尋ちゃん」
「それより沖田さん、山南さんが……!」
山南さんは苦しげな息遣いをしながら、沖田さんに訴えかけた。
「見ての通り……実験は、失敗です…。沖田君……お願いできますか……?」
「……ええ、わかってます」
沖田さんの表情さ、あまりにもいつものもの。
だけど彼は刀を抜き払っていて、私は彼が何をしようとしているのか理解出来なかった。
沖田さんは磨き抜かれた刀の切っ先を、山南さんへと向けながら告げた。