第3章 巡察【共通物語】
今さっき、彼は【女】と言ったのだ。
しかも千鶴はつられて言いかけていたので、思わず口を塞ぐ。
そして千鶴も気付いたのか焦った表情で目を見開かせていて、私は焦りながら否定をする。
「才谷さん、私たちは女じゃなくて……」
「いや、どこをどう見ても女だろ。それとも、俺を馬鹿にしてるのか?」
「い、いえ…別に馬鹿になんて」
だが、私たちは男装をしているが女と分かる程のもの。
彼が気が付いてもおかしくはないが、こうも直ぐに女と気付かれると傷付くというか、複雑な気分になってしまう。
「ま、こんな可愛い娘たちがうろうろしてたら周りの男が放っておかないだろうし、男の格好してるのは正解だと思うぜ。で、あんた達の下の名前はなんと言うんだ?」
「雪村千鶴、です……」
「雪村千尋です……」
「千鶴と千尋っていうのか。思った通り、あんた達にぴったりの可愛い名前だな!」
「そ、そうでしょうか……」
「で、あんた達はどういう男が好みなんだ?男と出かけるんなら、どういう場所がいい?」
前に父様が【知らない男性に可愛いとか馴れ馴れしくされたら警戒しなさい】と言っていたが、才谷さんはその警戒する人に当てはまっている。
私は千鶴と才谷さんとの間に入ると、警戒してから千鶴の手を取って歩き出そうとした。
「そういうのは結構です。父の行方を捜すお手伝いをしてくれなさそうですし、私たちはこれで失礼します」
「ああ、待て待て冗談だ。ほんと、あんたは警戒心が強いなぁ……姉を守る妹というのも健気で可愛いけどな」
この人、胡散臭いし女たらしなのだろうか。
そう思いながらも、私たちは才谷さんの話術に引き込まれっ放し。
なにかと【可愛い】というので警戒していた。
暫くして、才谷さんの話を聞いていれば斎藤さんがこちらに歩いてくるのが見えた。
「雪村たち、待たせてすまなかったな。今、戻った」
「あ、斎藤さん……」
「何だ、お仲間が帰ってきちまったのか。そんじゃ、これ以上の手助けは無用かな」
斎藤さんを見た才谷さんは、何故か少し残念そうな表情を浮かべながら縁台から立ち上がった。
「それじゃあな、千鶴に千尋。縁があればまた会おうぜ」
別れの挨拶を交わす間もなく、才谷さんは人混みに紛れて消えてしまった。
何だか不思議で、胡散臭い人だったなと思っていれば斎藤さんが尋ねてくる。