第3章 巡察【共通物語】
「……だがあんた達、困ってるんだろう?京に来たばかりなら、伝手もろくにないだろうし」
「それは、そうですけど……。父がここにいるかもしれないというのも、単なる噂に過ぎませんし。そうな状況で手伝っていただくのは、申し訳ないですから……」
「ふん、なるほどなるほど」
すると彼は、にんまりと笑って納得したように頷いた。
こちらの言葉に納得して、協力するというのは諦めたのかなと思っていたがーー。
「ま、それならそれで別にいいさ。どうせ退屈してるところだしな」
「えっ?あの、退屈ってーー」
「いいからいいから。袖振り合うも多生の縁、なんていうだろ。俺に任せておけって」
「いえ、あの本当に大丈夫ですから」
「まぁ、まぁ。あんたもそう警戒するなよ」
断るが、彼は笑いながら協力すると言って聞かない。
しかも何度も断ったがその度に【いいからいいから】と軽い調子でいなされてしまう。
それに私に対しては【そんな警戒するな】と肩を叩きながら笑っていた。
最終的に、【お願いします】という言葉以外の答えを全部拒否されてしまった。
そんな彼に対して私たちは困り果ててしまうが、結局私たちが折れる事になってしまった。
「……それじゃ、よろしくお願いします。えっと……」
「俺の名前か?俺は、才谷梅太郎っていうんだ。よろしくな」
「才谷さん、ですか。私たちは雪村といいます。よろしくお願いします」
「雪村ちゃん、な。名は体を表すなんていうが、そのまんまだな」
「そ、そうでしょうか……」
「で、下の名前は?きっとあんた達によく似合う、可愛い名前なんだろうが」
「えっと、その……」
見ず知らずの人に下の名前まで教えようとは思わない。
私は彼の目を見ながら、丁寧に断ることにした。
「すみませんが、今さっき会った方に下の名前までは教えれません」
「本当にあんたは警戒心が強いな。そう言わずに、下の名前も教えてくれよ」
「いえ、教えれませんので」
私が首を横に振りながら断るが、彼は困った表情をして諦める……なんて事はなく、相変わらずの人懐っこそうな笑みを浮かべたまま。
そして、彼は私たちが目を見開く発言をした。
「……ま、いいか。女っていうのはいくつも秘密があるって言うしな」
「そ、そうなんです。女はいくつも秘密があって……」
「ち、千鶴!!」
私は慌てて千鶴の口を塞いだ。