第15章 戦火の行方【沖田総司編】
すると、痺れをきらたしたように中岡さんが坂本さんの耳を掴んだ。
「おい坂本、いつまで別れを惜しみゆうがな。早よぉ行くぞ」
「あいててて!おいおい、耳を引っ張るな!おまん、何をそんなに怒っちゅうがで」
「うるさい!目を離したらすぐにフラフラしてから」
そうして、坂本さんと中岡さんは言い争いをしながら京の雑踏の中に消えていった。
「坂本さん、海軍操練所の所にいるって話していたよね。千鶴」
「うん。中岡さんもそうなのかな」
「どうだろうね……」
一見、怪しくは見えない。
胡散臭いところはあるけれど、悪い人とはどうして思えなかった。
なんてことを考えていた時だった。
「……雪村たち」
不意に名前を呼ばれて振り返れば、そこには斎藤さんが立っていた。
「斎藤さん!」
「あ、ごめんなさい。私たち隊列から離れてしまって……」
「いや、気にする必要は無い。それよりも、今、あんた
達と話してい男だが、あれは先日のーー」
「はい。あの時、寺田屋で会った人……、坂本さんです」
斎藤さんは坂本さん達が消えた方向へと視線を向けていた。
「何か聞き出せか?」
「はい、いくつか。土佐脱藩浪人だそうですが、今は幕府のお味方だと聞きました。何でも、神戸で黒船の使い方を学んでいるそうで」
「海軍操練所というところにいるそうです」
「幕府の海軍、か……」
そう呟いた斎藤さんの眼差しは鋭かった。
その事に首を傾げていれば、斎藤さんは再び私たちの方に振り返る。
「先程、坂本と言っていたが。才谷という名ではなかったのか?」
「本当は、坂本龍馬というそうです。浪人なので、本名をなのりにくかったと仰ってました」
「もう一人いたようだが、あの男は?」
「坂本さんのお知り合いの、中岡慎太郎さんという方です」
「ふむ……」
名前を聞いた斎藤さんは暫く黙り込んだ。
その様子に首を傾げて、千鶴と顔を見合わせていれば、しばらくして彼は顔を上げた。
「巡察に戻るぞ。予定から大幅に遅れてしまった」
「あっ、はい!すみません」
「すみませんでした!」
斎藤さんたちの予定を遅らせたことに申し訳なく思いながらも、坂本さん達のことを考えていた。
胡散臭いところはあるけれども、新選組の敵では無いことに安堵する。
次会う時ことがあれば、普通に話そう。
成る可く警戒せずにと思いながら巡察に同行しながら歩いた。