第15章 戦火の行方【沖田総司編】
呆れた目で見ていたけれど、才谷さんはそれさえ気にしない表情を浮かべていた。
すると才谷さんに千鶴が声をかける。
「あの、才谷さんは……」
「ん?俺がどうかしたか?」
「……実はその……、お聞きしたいことがあるんです」
「おう、何だ?俺に答えられることなら、どんなことでも答えてやるぜ」
千鶴が聞こうとしているのならと私は口を噤む。
だけど大丈夫だろうかとハラハラもしてしまい、私が聞いた方が良いのかなと落ち着かなくなってしまった。
「どうした?何か聞きたいことがあるんじゃないのか?」
「えっと……」
戸惑ったようにする千鶴は、口を閉ざしてしまった。
「……いえ、やっぱり何でもありません」
「そうか?せっかく何でもいいって言ってるのに、謙虚なんだな。ところで千鶴、千尋。俺の方からもお前達に聞きたいことがあるんだが、いいか?」
「聞きたいことですか?」
「何でしょう?」
何気なしに私たちがそう答えた時だった。
「お前たちが本当に聞きたいのは、俺の正体についてなんだろう?」
「っーー!」
「っ!?」
前触れもなくそう言われて、私たちは言葉を詰まらせた。
すると才谷さんは笑みを浮かべながら、可笑しそうに笑い出す。
「やっぱりか。聞きたいんなら、最初から素直に言えばいいのに」
「ど、どうして……!」
「いや、さっきの二人の緊張した様子を見りゃ、予想つくだろ。お前らが俺に聞きたいことがあるなんて、限られてるだろうし」
「そう……なんですか……」
やっぱり私たちにはこういうのは向かない。
そう思いながら気落ちしていれば、才谷さんは相変わらずの笑顔を浮かべていた。
「いや、実は脱藩してることもあって、この間は本名をなのれなくてな。悪かった。お前らに変名を名乗ったことが心残りだったんだが……、またこうして会えたってことは、縁があるってことだよな」
「いえ、ただの偶然だと思いますが」
「偶然でも何かの縁だ、千尋。ま、せっかくだから、本名を名乗ろう。俺の名は坂本龍馬。土佐の脱藩浪人だ」
坂本龍馬……と心の中で呟く。
なんだかストンと落ちてくるような感じであり、これが本名なのかと私は坂本さんを見た。
「坂本さん……」
そしてやっぱり土佐の脱藩浪人だった。
あの時、永倉さん達が言った通りだったのだ。