第3章 巡察【共通物語】
沈んだ気持ちのまま、千鶴がいる茶屋の方へと向かえば、千鶴の隣に知らない男性が腰掛けていた。
一体誰なのだろうと思いながら、足を早めて千鶴の元へと駆け寄る。
「千鶴!」
「あ、千尋……」
「ん?知り合いか?」
男性は私を見るなり微笑みを更に深くさせていた。
目元に黒子、褐色に近い肌の男性を怪しみながら凝視していれば、男性は可笑しそうに笑う。
「姉……じゃない。兄になにか御用ですか?」
「なんだ、兄弟か。なに、ぼーっとしてたからどうしたのかなと思って声をかけたんだよ。で、どうした?ぼーっとして。待ってるんじゃなきゃ、誰か探してるのか?」
「あっ、いえ……。その……、父を探してるんです」
「ほう、親父さんを……。って、何か訳ありみたいだな。話してみろよ。もしかしたら、力になれるかもしれないぜ」
優しい言葉と優しげな笑顔。
一見は親切そうな人だが、本当にただ親切そうな人なのだろうかと警戒する。
それにたった今会ったばかりの人に事情を明かしていいのか、かなり迷う。
千鶴もどうやら悩んでいるらしい。
困った表情をしながら私の顔を見あげるので、私が少し屈んでみれば千鶴は小さな声で囁く。
「今は、少しでも手掛かりが欲しいから……話してみよう?」
「……そう、だね」
確かに手掛かりは欲しい。
少しだけ警戒しながらも男性を見ていれば、千鶴はゆっくりと口を開く。
「父は、仕事で京に来ていたんですけど便りが途絶えてしまって。この近くで父らしい人を見たいという噂を聞いて、捜しに来たんです」
「あんた達、東国の生まれだろ?」
「はい、二人で江戸から来ました」
「そいつは大変だな。こっちの土地勘もないだろうし。よし、わかった。俺も付き合ってやるよ」
「「えっ……?」」
彼の言葉に私達はお互いの顔を見合わせる。
だが、見ず知らずの人に手伝ってもらうのも申し訳ない。
私は千鶴の耳元で小さく囁いた。
「見ず知らずの人に手伝ってもらうのは申し訳ないし……。この人、本当に親切心で言っているか分からないから断ろう」
「そう、だね…。あの……今、お会いしたばかりの方に協力していただくのは、申し訳ないですから」
「有難いですが…大丈夫です。申し訳ないですので」
二人でそう断れば、彼はわずかに眉をしかめてから尋ねてくる。