第14章 動乱の音【沖田総司編】
目を見張っていれば、沖田さんは更に私の腰を引き寄せてきて顔が近付いてくる。
慌てて彼の胸元を押して逃げようとするけれど、彼の腕がそれを許してくれない。
「お、沖田さん!」
「ほら、違うでしょう?【総司お兄さん】でしょう?千尋ちゃん」
「そ·····、総司お兄さん!!これで満足ですか!?」
近過ぎる距離に目を固く瞑りながら叫ぶ。
「まあ、良いよ、それで。うん·····なんか本当に妹が出来たみたいな感じがするね。【お兄さん】って呼ばれると」
「そ、そうですか·····。とりあえず離してもらえませんか?沖田さん·····」
やっとのことで沖田さんは離してくれて、私は安堵のため息を吐き出した。
気まぐれで起こした事なのだろうけれど、私の心臓にはかなり悪い。
激しく動く心臓を落ち着かせながら、沖田さんの方へと視線を向ける。
あれだけ薬のせいで機嫌が悪そうだったのに、今は何故かご機嫌。
「でも、妹かあ。妹なら、食事の時に君が口煩くしてきたら妹がわがままを言ってると思えるね」
「わがまま·····」
「妹がわがままを言うから、お兄さんの僕が言うことを聞いてあげると思えば苛つく事もないかもしれない。ね?千尋ちゃん」
「·····も、もう好きにしてください」
沖田さんと居ると自分の中の物が乱されるというか、なんというか。
そう思いながらため息を吐き出していれば、沖田さんは楽しげに金平糖を食べている。
「あ、千尋ちゃんも食べる?お兄さんだから、妹に金平糖をあげて可愛がってあげるよ」
ふにっと唇に金平糖を押し当てられる。
沖田さんを睨みながらも、私はその金平糖を口の中に迎え入れた。
甘い味が口の中に広がり、何時もなら甘いものを口にしたら幸せになるけれど今はそうじゃない。
「美味しい?」
「·····美味しいです」
「不貞腐れた顔してるね。千尋ちゃん、そんな顔ばっかりしてると可愛くなくなるよ」
「大きなお世話です!」
勢いよく立ち上がった私は、お盆に薬の包み紙と湯呑みを載せてからふすまへと歩いていく。
「それでは失礼します!!」
「あははは!」
何がそんなに楽しいのかというぐらいに、沖田さんは笑っていた。
そんな彼を睨みながらも私は勢いよくふすまを閉めてから、揶揄われたことに少し腹を立てながら勝手場へと向かうのだった。