第1章 始まり【共通物語】
油断したせいで、この事態を招いたのかもしれない。
そう反省しながら、三人の浪士を見ながら私は千鶴を庇うように前に出る。
「ガキのくせに、いいもん持ってんじゃねぇか」
どうやら武士達が見ていたのは、私や千鶴というよりも私が持っている刀と千鶴が持っている小太刀のようだ。
「小僧達には過ぎたもんだろ?寄越せ。国のために俺たちが使ってやる」
「これはーー」
千鶴が持っている小太刀と私が持っている刀は、私達の家に代々受け継がている、とてもとても大切なもの。
絶対に渡すわけにはいかないし、この刀は千鶴を守る為のものだから渡せるわけない。
でも、相手は話を聞いてくれるようには見えない。
かといって、ここで私が三人を相手した時に別の仲間がやって来て千鶴に仇なすかもしれない。
(こういうときは……)
勢いよく千鶴の方を見れば、千鶴も同じ事を考えていたのだろう。
千鶴も私の方を見ていて、お互いの顔を見合わせてから頷くと私達は手を取り走り出した。
「こういう時は、逃げるが勝ち!」
下手に刀を抜いて千鶴を危険な目に遭わすよりも、逃げきった方がまだいい。
「ーーあ!?おい、待ちやがれ小僧達!」
土地勘も無いのに私達は一心不乱に町中を走る。
もう夜になったせいなのか、それともあんな浪士達がいて身を守る為なのか町には人の気配が全くない。
しかも浪士達は諦める事なく、まだ私達を追いかけてきていた。
「まだ……追ってくる……!」
「執拗い……!」
後ろからは未だに浪士達の走る足音と共に怒鳴り声も聞こえてくる。
なんとか撒く為にも狭い路地を駆け抜けながらも、私と千鶴はまだ浪士達が追い付いていないのを確認して、家と家との間に身を滑り込ませた。
丁度よくあった立てかけられた木の板たちは、しゃがみこんだ私達を覆い隠してくれる。
(浪士達が諦めてくれるか、それとも姿が見つけられなくて通り過ぎてくれるか…)
もし、それが不可能ならば、私が囮になって千鶴を逃がさないといけない。
そう思いなが刀の鍔に親指を添えた時だ。
「…………あれ?」
「浪士達が、来ない……?」
いくら待っても浪士たちは現れない。
もしかして、諦めてくれたのかもしれないと甘い考えをしていた時。
「ぎゃああああああっ!?」
「な、何……!?」
「ひ、悲鳴……!?」
静かに隠れている事が一番賢い行動ではある。