第14章 動乱の音【沖田総司編】
沖田さんはお強い人だ。
そんな彼を相手にしているのに、あの浪士は悠々とした態度をしていて、しかも沖田さんを押している。
「さて、そろそろ帰らせてもらおう。要らぬ邪魔立てするのであれば容赦せんぞ」
池田屋にいた浪士なのに、まるで今の状況に興味なさげに呟く男に私は眉を寄せた。
それどころか、男の視線や纏う気配に敵意を全く感じない。
一体この男はなんだろう。
そう思っていれば、沖田さんは敵意を滲み出している瞳を細めながら不敵に笑った。
「悪いけど、帰せないんだ。僕たちの敵には死んでもらわなくちゃ」
沖田さんは軽やかに畳を蹴り上げる。
そして男へと斬撃を見舞うが、男は軽々しくそれを受け流していた。
(何、あの男。全く身体を動かさずに、腕だけを動かして沖田さんの斬撃を受け流してる……)
噛み合った剣が離れる時、沖田さんが体制を崩した。
浪士の剣はどうやら、彼が体制を崩すぐらいに重いみたい。
(……見てるだけじゃなくて、なんとかしなきゃ。沖田さんには迷惑ばかりかけてるんだからっ!)
私は咄嗟に自分の腰に差していた刀を引き抜くと、勢いよく刀を浪士へと投げた。
気をそらせたら、沖田さんが何とかしてくれるはず。
「ーーむ!」
投げた刀の切っ先は、浪士へと飛ぶ。
だが投げられた刀に気が付いた浪士、少しだけ目を見張ってから私の投げた刀を叩き落す。
簡単に叩き落とされたけれども、沖田さんは浪士の僅かな隙を見逃さなかった。
そして敵へと一撃を放ち、相手もなんとかそれを受け止める。
だけど体制を崩して、顔を不愉快そうに歪めていた。
(何とか、なったみたい……)
そう思っていれば、沖田さんが私へと視線を向けてきて小さく囁いてきた。
「いい子だね、千尋ちゃん。後で、いっぱいほめてあげる」
「……え、ほめ?」
沖田さんに褒められるってどんなのだろうか。
そう思いながらも、彼に褒められた事が少し嬉しくなった。
「こしゃくな……!」
すると浪士は素早く刀を振り下ろす。
「くっ!」
やはり、浪士の攻撃は重い。
沖田さんは苦痛に顔を歪めながらその攻撃を受け止めていた。
微かに沖田さんが体制を崩した瞬間、それを見逃さなかった浪士が沖田さんの身体を蹴り飛ばした。
「がっ!?」
「沖田さん!?」
蹴り飛ばされた沖田さんは床を転がり、胸元を抑えて血を吐いた。