第14章 動乱の音【沖田総司編】
「大丈夫か、総司!?」
「くそっ!死ぬなよ、平助!!」
近藤さんと永倉さんの声に、私は目を見開かせる。
知っている人が死ぬかもしれない、だけど踏み入っても何か出来るわけでもない。
だけど知らない顔をして、後から見知った人の死体は見たくなかった。
(倒れた人を引きずって、池田屋の外に出すことぐらいならできるかもしれない……)
息を深く吸った私は、池田屋へと飛び込む。
明かりが消えた中は真っ暗で、足元がかなり見え辛い。
だけど、むせ返る血の匂いだけはよく分かった。
「うっ……くっ」
ぞわりと背筋が凍り、吐き気がして目眩もする。
身体はがくがくと震えて、足が震えて立つのが精一杯だった。
(今は、倒れてる暇はない……!)
自分の足を拳で叩きつけて、私はなるべく倒れた人を見ないようにと辺りを見渡した。
そういえば、沖田さんの姿は見えないけれど何処にいるだろうか。
「昼間……迷惑かけた分、なんとかしないと」
そう呟いた時、誰かの叫び声が聞こえた。
「うわああああっ!?」
「っわ……!?」
階段から浪士が転がり落ちてきたのだ。
思わず刀へと手をかけたが、それより先に目の前で近藤さんが浪士の身体を突き刺した。
「っ……う」
吐きそうになり、慌てて口を手で覆う。
「君が来たのか……!他の隊士は何をやってるんだ!」
目の前にいた近藤さんは珍しく焦りが滲んだ表情を浮かべていた。
「すまんが、総司を見てやってくれるか。二階に居るのは、総司と浪士が一人だけだ。総司に限って負けはせんだろうが、手傷は負うかもしれん。敵も相当の手だれだ」
「……わかり、ましたっ!」
近藤さんの言葉に頷いた私は、吐きそうなのを堪えながら階段を駆け上がっていく。
後ろでは切り裂かれる音が聞こえ、思わず耳を塞ぎたくなった。
「……沖田さんは……どこに」
階段を駆け上がり、一つ一つ部屋を覗いていく。
そしてある部屋を覗いけば、そこに沖田さんは立っていた。
だが彼の目の前には浪士が一人、焦る表情もなく立っている。
(……この気配、まさか)
感じたことある気配に、額から汗が浮かぶ。
同時に嫌な予感がしていれば、金属と金属が弾き合う音が部屋に響いた。
「どれほどのものかと思っていたが、新選組の腕もこの程度か」
浪士が沖田さんを見ながら嘲笑い、その瞳は見下しているものだった。