第3章 巡察【共通物語】
「……直ぐに、バテてしまう。もっと、体力を付けなきゃ…じゃないと、千鶴を守れない」
そう呟きながら、私はその場で素振りを始めた。
木刀が空気を斬る音が響き、頬には汗が流れ落ちていく。
(もっと、もっと強くならないと。【あの人】との約束を守る為にも、もっと強くなりたいっ…!)
一心不乱に私は木刀を振り続けた。
強くなるため、約束を守る為、宿命の為にただ一心不乱にーー。
❈*❈翌日❈*❈
翌朝、私と千鶴は土方さんに呼ばれて広間に来ていた。
広間には斎藤さんも居るが、昨日と違うのは沖田さんや原田さん達がいないぐらいである。
「悪いが、お前ら二人には斎藤と一緒に伏見に行ってもらう」
「伏見ですか…?伏見には昨日、斎藤さんが行かれたのでは?」
千鶴の問に土方さんは小さく頷きながらも、何故伏見に向かうように言ったのか説明をしてくれた。
昨日土方さんが言っていた、伏見に父様らしい人がいたとい目撃情報は人違いだった。
だが、また直ぐに伏見で父様らしき人物がいたいとう別の情報があったらしい。
「てことで、伏見に行ってみてくれ」
「分かりました」
「じゃあ斎藤。あとは頼んだぞ」
「承知しました」
今度こそはどうか、人違いではなく父様の情報でありますように。
そう願いながら、私達は斎藤さんと共に伏見の寺田屋付近へと向かった。
今日の風はじっとりとしている。
だが、雨が降る気配はなく、ただじっとりとした肌にまとわりつく不快な感じではあった。
「あの、斎藤さん。新しい目撃情報とはどんなものなんですか?」
「また、寺田屋での目撃情報だが、剃髪の蘭方医が出入りしているのを見たとのことだ。この間の人違いの情報も、剃髪の蘭方医だったが…次こそは、綱道さんだったら良いな」
寺田屋という所はそんなに剃髪の蘭方医の方が出入りしているのだろうか。
そう考えていれば、程なくして伏見にある寺田屋に辿り着いた。
「……向かいに、茶店があるな。入ることにしよう」
「えっ?ですけど……」
「寺田屋に聞きには行かないのですか?」
まさかの斎藤さんの言葉に、千鶴と二人して驚いてしまう。
だが、隙のない目つきで店の方を睨みつけている斎藤さんを見ると、恐らく事情があるのだろうと察しがつき、私達は寺田屋の真向かいにある茶店へと入った。