第3章 巡察【共通物語】
斎藤さんの稽古はかなり厳しい。
でも、とても為になる事を教えてくれたり、私の悪い癖を直してくれたりとしてくれる。
「雪村!ちゃんと相手の動きを見て、攻撃がどう来る判断しろ。さもなければ斬られて終わるぞ」
「は、はい!」
「動きをきちんと見るのはいいが、動きばかりに気を取られるな!」
「はい…!」
木刀同士がぶつかる音、私の上がっていく息遣いが中庭に響く。
時折、斎藤さんの木刀が脇腹や足へと当たり痛みが身体中に走っていき、その場で崩れ落ちそうになるが何とか耐えた。
座ってはいけない、相手の攻撃をちゃんと見る、相手に攻撃が悟られないようにする。
痛みに耐えて、殺されないようにしなければと、私は唇を噛み締めながら斎藤さんとの打ち合いの稽古を続けた。
「……今日はここまでだ」
「あ、あり……ありがとう、ございました……」
その場で私は思わず座り込んでしまった。
足はガクガクと震えて、息切れしながらなんとか息を吸って、息切れを落ち着かせようとする。
「大丈夫か、雪村」
「は、はい…」
「だいぶ、剣術の腕が上がってきている。あんたは、覚えが早いんだな」
「ほ、本当ですか?」
「ああ。俺は、嘘はつかない」
斎藤さんはそう褒めてくれながら、座り込んだ私へと手を差し伸べてくれた。
なんとか震える手を伸ばして、斎藤さんの手を掴み立ち上がると、斎藤さんはヨロヨロとした私を支えながら歩き、縁側に座らせてくれる。
「一つ聞きたいが……あんたは、どうしてそこまでして強くなりたい?」
隣に腰掛けた斎藤さんは、私の目を真っ直ぐにみながらそう聞いてきた。
まるで、私の奥底の本心を探るかのような目を向けてきながら。
「千鶴を、守りたいからです。大切な人を、失わないようにしたいから、強くなりたいです」
真っ直ぐに斎藤さんの目を見返せば、彼は目を伏せながら小さく笑う。
「そうか。本当に大切に思っているのだな、姉を」
「はい」
「そうか。そこまであんたに大切に思われている姉は、幸せ者だな。では、俺はもう部屋に戻る。あんたも戻ってゆっくり休め」
「はい。ありがとうございました、斎藤さん!」
歩いて去っていく斎藤さんを見送ると、私は木刀を手にして立ち上がる。
斎藤さんにはゆっくり休めと言われたが、私はまだゆっくり休もうとは思えなかった。