第14章 動乱の音【沖田総司編】
二人はまるで世間話をしているように、口調は凄く軽くて驚いてしまう。
緊張をしていないのだろうかと思いながら立っていれば、私が戻ってきた事に気が付いた平助君が駆け付けて来た。
「どうだった、千尋。会津藩とか所司代の役人、まだ来てなかった?」
「辺りを見てきましたが、会津藩の方や所司代の方らしき人はいませんでした」
「日暮れ頃にはとっくに連絡したってのに、まだ動いていないとさ何やってんだよ……」
「落ち着けよ、平助」
平助君の言葉に、永倉さんは落ち着いた様子で笑って見せる。
「あんな奴ら役に立たねえんだから、来ても来なくても一緒だろ?」
「……だけどさ、新八っつぁん。オレらだけで突入とか無謀だと思わねえの?」
顔を顰めた平助君の言葉は、確かにと同意できるもの。
池田屋に来ている新選組の隊士の方々は数がとても少ないのだから。
すると、後ろに控えていた武田さんが平助君の言葉に同意するように頷いていた。
「この人数で踏み込むなど無謀にもほどがある。ここは会津藩の援軍を待つべきかと」
「武田君がそう言うなら……。わかった、もう少しだけ待ってみよう」
私は、性格的に武田さんは苦手だけど近藤さんはどうやら彼を信頼しているみたい。
近藤さんが自分の言葉に同意したことに、武田さんは満足気に笑みを浮かべていた。
それから、新選組は会津藩と所司代の援軍を待っていた。
だけどいくら待っても、お役人の方が現れることはなく、ただ時間だけが過ぎていく。
(亥の刻ぐらいかな……)
空を見上げれば、月の位置が随分移動していた。
かなりの時間が経っている事が、月の位置で分かる。
「……さすがに、これはちょっと遅すぎるな」
「近藤さん、どうします?これでみすみす逃がしちゃったら無様ですよ?」
沈黙していた近藤さんは、不意に立ち上がると私の肩を軽く叩いた。
「これ以上は待てん。総司、永倉君、藤堂君……俺についてきてくれ」
彼の言葉に、沖田さんは静かに頷いた。
「では、私は表口を固めますから、みなさんご存分にどうぞ」
「は?武田さん、来ないつもりかよ?」
「いいからいいから。中が暗くて間違って斬られても困るし。……あ、こっちが間違って斬っちゃうかも」
「……沖田君、それはどういうことかな」
沖田さんの挑発したような、馬鹿にしたような言葉に武田さんは思いっきり顔を顰めた。