第13章 雪舞う大地で貴方と【土方歳三編】
その後、土方さんは結局弁天台場までたどり着くことはできなかった。
新政府軍の圧倒的な兵力を前にして、弁天台場は降伏したのである。
やがて箱館市中も新政府軍に占拠され、箱館軍はとうとう降伏した。
箱館戦争は、こうして終結したのである。
蝦夷地に訪れたささやかな春に、新選組の戦いも終わりを迎えた。
蝦夷共和国の方々の中で、特に降伏を強く主張したのは大鳥さんらしい。
死ぬよりも生きていた方が、先を望めるから……そう言葉にした彼は、とても彼らしい。
そして、有能さを敵将に買われた榎本さんは極刑を免れて、現在も投獄されていると聞く。
島田さんは、厳しい戦いを無事に潜り抜けた。
これからどうするのかと、聞いた際には島田さんは【京に戻って剣術道場でも開きます】と笑っていた。
八郎お兄さんは五稜郭開城直前に、榎本さんから渡されたモルヒネを飲まれて命を絶った。
新政府軍に投降され、生き延びるくらいなら潔く命を絶つ。
それが八郎お兄さんにとっての武士のあり方だったのかもしれない。
そして、土方さんに後を託された相馬君は最後の新選組局長として新政府軍に投降して、今も囚われの身。
千鶴は江戸に戻り、彼の帰りを待つと微笑んでいた。
私はきっと、桜を見る度に思い出すだろう。
この地で多くの命が奪われたこと、信じたものの為に自らの道を貫き通した武士たちがいたことを。
そして……
「千尋、また桜を見てやがるのか?」
歳三さんと、共に過ごした時間を何度も思い出すだろう。
「だって、桜が綺麗ですもの」
薄絹のように柔らかい手触りの花弁を手にしていれば、彼が隣に立つ。
私たちは人目を避けるようにこの蝦夷地の山奥で夫婦になり、二人で暮らしていた。
「おまえ、本当に桜が好きなんだな」
「ええ。だって、貴方に似ている花ですもの」
歳三さんはそう応える私に、柔らかい微笑みを浮かべてくれる。
そして彼は目を細めながら、静かな声色で囁いてくれた。
「……俺も好きだよ。おまえに似合うからな……特に、夜桜と星がおまえに似合う」
「夜桜と星?」
「おまえは、星に似ているって気が付いたんだ。真っ暗な闇を明るく照らす月じゃなくて、微かに暗闇を照らして明るく輝く星に。月でもなく、小さく輝き道標になってくれる星に」
彼の言葉に、私は目を見張ると顔を赤く染めていく。