第13章 雪舞う大地で貴方と【土方歳三編】
風間の瞳は、屈辱や怒りはなかった。
満足気な色が彼の瞳を染めていて、わずかに唇が動いた。
「貴様のような鬼と戦い、息絶えるのであればーー何を、悔いることがあろうか。俺は誇り高き鬼としての生を全うした」
己の死を受け入れた。
風間は己が認めた鬼から与えられた死を、認めていたのだ。
「おまえは、俺に勝った男だ。残り少ないその命を、存分に生かすのだな。……薄桜鬼よ」
それが、風間の最後の言葉だった。
やがて風間の身体から、穿たれた刀が静かに引き抜かれるとその場に倒れこむ。
「ああ。……生きてやるさ」
そして、風間の言葉に応えた土方さんもその場に膝をつく。
「土方さん!!」
私は彼の元に駆け寄った。
そして彼の元に膝をつくと、私は土方さんの名を呼ぶ。
「土方さん……!土方さん、しっかりしてください、土方さん!」
懸命に呼びかけていれば、やがて彼は困ったように笑いながら私を見上げてきた。
「……相変わらず泣き虫だな、おまえは。そんな調子じゃ、武家の女房なんてつとまらねえぜ」
弱々しく呟かれる言葉に、私は涙を溢れさせる。
こんな時でも憎まれ口を叩くなんて、本当に彼らしい。
「……貴方が、泣かせているんですよ。それに、武家の女房だって、大切な人が大怪我をすれば泣いてしまうに決まっています」
微笑みながらそう応えれば、私の涙が土方さんの頬へと落ちていく。
すると土方さんは震える指をゆっくりと持ち上げると、私の目元に伸びた。
優しく、震える指で私の涙を拭ってくれる。
「……安心しろ。これからは、こんな風におまえを泣かせることもねえよ。これからの時間は、おまえのことだけを考えて生きてやるさ……」
「……ええ。生きて、ください」
土方さんの瞼が閉じる。
そんな彼を私は、涙を流しながら強く抱き締めた。
すると、私たちの周りは風に吹かれた桜が舞い上がり桜の花弁に囲まれる。
「生きて、いきましょう……土方さん」