第13章 雪舞う大地で貴方と【土方歳三編】
はらはらと舞う桜が、風間へと舞い落ちる。
その桜を眺めながら彼は小さく呟いた。
「貴様らは散りいそぐさだめにある。生き急ぐ様は、まるで桜のようだ」
「……生き急いでるわけじゃねえよ。必要とされるものが多かっただけだ。新選組が理想とする武士の道は険しいんでな」
淡々と喋る土方さんの口元に、笑みが浮かんでいた。
今まで彼らが駆け上がった坂道は、おびただしい汗と血と涙があった。
その一瞬一瞬を誇るかのような、そんな表情だ。
沈黙が流れる中で、風間が呟いた。
「【羅刹】と言うまがい物の名は、貴様の生き様には相応しくないな」
風間の瞳には、ずっと見てきた蔑みの色が宿ってはいなかった。
「貴様はもはや、一人の【鬼】だ」
風間が、己が鬼であることに強い自信と矜恃を持つ風間が人であり、羅刹である彼を【鬼】と呼んで認めた。
これは風間なりの賞賛の言葉なのだろう。
「まがい物という評価は、取り下げよう。貴様の存在に敬意を表し、鬼としての名をくれてやる。……【薄桜鬼】だ」
なんて、彼に似合う名なのだろう。
私はそう感じながら、初めて土方さんと出会った時を思い出した。
あの夜、髪を風になびかせた彼がまるで狂い咲きのような桜に見えた。
まるであの時から、この名前が彼に授けられるのが分かっていたように。
「鬼として認められる為に、戦ってきたわけじゃねえんだがな」
不敵な笑みを浮かべた土方さんは、羅刹化すると腰に差していた刀を抜き取る。
「長くは遊んでやれねえが、それでいいだろ?」
「構わぬ。一太刀で仕留めてくれよう」
風間もまた、鬼本来の姿になると刀を構えた。
二人の間に凄まじい殺気が立ちこもる。
彼らの勝負は一瞬で決まるのだろう。
私はそんな彼らから目を離すことは決してしない。
そして、風が桜の花びらを高く天に届くまで舞い上げて視界が桜の花びらで埋めつくされた瞬間。
二人は同時に地を蹴っていた。
交差は一瞬。
そして、桜の花びらが消え去った時、目の前に広がる光景を私は見た。
風間の刀はわずかに、土方さんの身からそれていた。
そして、土方さんの刀は風間の胸を深々と貫いている。
「……守らなきゃならねえものが、あるんだ。たとえ鬼にだろうと……負けられねえんだよ」
穏やかな声で、土方さんが囁いた。