第13章 雪舞う大地で貴方と【土方歳三編】
「よくぞ、この地まで辿り着いたものだな。ただのまがい物ふぜいが。東国での戦は、敗走に次ぐ敗走だったと聞いている。たとえ武家の生まれの者でも……」
風間は言葉を途切らせた。
だが直ぐに、土方さんを真っ直ぐに見つめながら言葉を続ける。
「いや、鬼として生を受けた者でも、あれほどの苦難を乗り越えることはできぬだろうな」
風間の言葉に、私は目を見張る。
今まで人間や羅刹を……土方さんを見下していた風間の言葉とは思えなかった。
まるで土方さんを賞賛するかのような、言葉だ。
「……まさか、本当に蝦夷まで来るとはな。俺が途中で死んでたら、どうするつもりだったんだ?とんだ無駄足じゃねえか」
苦笑を浮かべる土方さんき、風間は笑みで応える。
そしてゆっくした動作で、腰に差していたあの童子切安綱を引き抜く。
その行動に、私は目を見張ってから風間を睨む。
「待ちなさい、風間!土方さんは今、怪我を……深手を負っているの!」
すると土方さんが私の肩に手をかけてきて、私は彼の方へと視線を向ける。
「……下がってろ」
食い下がろうとしたけれども、彼の瞳に私は口を噤んだ。
「こいつは何もかも投げ打って、俺を追ってきたんだろう?なら、その心意気に応えてやるのが、誠の武士ってもんじゃねえか」
「……分かりました」
風間ははぐれ鬼となってもなお、己の誇りを守ろうとしていた。
彼らの間に通じるものがあるとすれば、己の信念の為に命をかけている所かもしれない。
だが、不安で私が瞳を揺らす。
すると私の不安を察したのか、土方さんが柔らかい声で言葉をくれた。
「平気だよ、俺は死なねえ。死ねねえ理由ができたって言ったじゃねえか」
致命傷を負い、寿命が尽きかけているかもしれない。
風間と戦ってしまえば、その寿命がもう尽きてしまうかもしれない。
だけど私には、彼を止める事は出来なかった。
私が、ここで止めてしまえば誠の志が折れてしまう。
ならば私が出来ることは、彼らの戦いの行く末を見守ることだけ。
「……わかりました。ここで、見届けます……。信じて、いますからね」
土方さんは微笑みを浮かべた。
その微笑みは今、散っている桜の儚さと同じように見えた。
「……羅刹など、所詮はまがい物。ただでさえ短い寿命を削ったとて、その力は、我ら純血の鬼には適わぬ」