第13章 雪舞う大地で貴方と【土方歳三編】
「……そろそろ移動するぞ、千尋。じきにここも気付かれる」
「はい、わかりました」
回復した土方さんは、ゆっくりと辺りを警戒しながら立ち上がり、私も立ち上がった。
「行くぞ。裏手から五稜郭に戻る」
「了解しました」
「……できればもう二度と、こんなふうに味気のない口付けはしたくねえもんだな」
「……私だって、したくありませんよ」
苦情混じりの彼の言葉に、私もそう返した。
そしてまだふらつく土方さんを支えながら、ゆっくりと歩き出す。
暫くして、ようやく私たちは五稜郭の裏手へと戻ってきた。
「……あ」
五稜郭の裏手に広がっていたのは、美しく咲き誇る桜だった。
桜の花弁が風に散らされ、ゆらゆらと空を舞っているのがなんとも美しい。
幻想的な世界に迷い込んだようだ。
「桜か……」
土方さんは桜の木を見上げながら、小さく呟いた。
そんな彼を見ながら、私は傷口がある腹部を見てから訊ねる。
「土方さん、傷の調子はどうですか?大丈夫ですか?」
私の問に、土方さんは曖昧な笑みで答える。
本来ならば、羅刹の彼はあの傷は直ぐに治ってしまうはず。
だけど治っていないということは……。
(考えたくないけれど、そうなのかもしれない……)
土方さんの寿命はつきかけているのかもしれない。
そう思いながら、私は泣き出しそうになり俯いていれば土方さんが不意に言葉を零す。
「おまえには、桜が似合うな」
「……桜、ですか?」
彼の言葉に、私は数回瞬きをする。
そして桜を見上げながら、彼の言葉を思い出す。
「私に、桜は似合うでしょうか……?どちらかと言うと、土方さんに似合いますよ」
桜は何処か、武士の生き様にも似ている気がする。
懸命に花開き、でもあっという間に散って行く姿が武士の生き様に……私が見てきたら彼らに似ている気がした。
すふと、不意に強い風が吹いて桜の花びらが舞い上がる。
そして桜の花吹雪の間に、あの男が立っていた。
「ーー生きていたのだな」
風間が、そこに立っていた。
「風間……どうして……」
「決着をつけに来ただけだ。俺の誇りにかけて、この禍根を消し去る」
宇都宮城での事を思い出した。
風間はあの時、次こそは土方さんの息の根を止めると言っていたことを。
土方さんを追い掛けるが為に、この蝦夷地に来た。
まるで私と同じだなと思ってしまう。